神様メール : 映画評論・批評
2016年5月24日更新
2016年5月27日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
シリアスなテーマもファンタジックに描く、幸せな驚きに溢れた作品
想像をいい意味で裏切りつつ、期待をはるかに超えたものを見せてくれる。これはそんな幸せな驚きに溢れた作品だ。
神様がブリュッセルのアパートに住み、パソコンで人々の運命を管理しているという設定からしてユーモアに溢れる物語は、期待以上にファンタジックで最高にキュート。だが、その神様の10歳の娘エアが高圧的な父親へ反発することから始まる混乱は、ただファンタジックでキュートなだけのはずがない。なにしろ、これまた父親とそりが合わずに家を出たらしい兄JC(イエス・キリスト)に勧められ、「新・新約聖書」(本作の原題)を記すために下界へやってきたエアが出会う6人の使徒たちのみならず、人々はエアが人間を運命から解放するために一斉送信したメールによって自分の余命を知ってしまっているのだから。
自分に残された時間を知る。それは、自分が何をしたいのかを見つめること。年齢も境遇も違うさまざまな人々の、残された時間の長さもまた違うことが、観客に、自分だったらどうするだろうと考えさせずにいないのだ。余命数十年の安心から無謀な行動を繰り返す男や、自分が亡きあとの子供の身を案じる母親など、市井の人々のリアルな風景を織り込んでいく、ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の視線もまた物語に深みを与えている。
だが、そんなシリアスなテーマを使徒たちのせつなくも美しい恋とともにファンタジックに描くのが、ドルマル監督の真骨頂。神様のどうしようもない意地悪男ぶりにあきれさせつつ、彼が意地悪心から作った“日常的な不快の法則”のかずかずや、エアが見せてくれるいくつかの小さな奇跡、そして壮大なクライマックスまで、いくつもの神業に微苦笑したり爆笑したりするのもお楽しみ。悩める使徒の“心の音楽”を聴き分けて勇気づけるエアの愛くるしさはもちろん、カトリーヌ・ドヌーブ演じる有閑マダムとゴリラが恋に落ちるなんていう、一歩間違ったらキワモノになりかねない光景さえもすんなり受け入れさせるファンタジー力に、とにかくときめきっぱなしだ。自分の“心の音楽”は何なのか。きっと、エアに教えてもらいたくなるはず。
(杉谷伸子)