ルームのレビュー・感想・評価
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映画の良心、的作品。
「シンプルな力強さと複雑な余韻。」
2016.6.5シネマeraにて再見。
一度目は「初めて感動」を想い起されただただ涙するばかりだったが、二度目の鑑賞で「子供は二人いるのだ」と、改めて作品の深さが味わえた一本。
ジャックという新たな要素はあれど。
「7年間時間の止まっていた」人物がこの物語の裏の主役なんだよな。
その止まった7年間がすべての登場人物の幼さ・未熟さ・幼稚さを暴いていく…ある意味恐怖映画かもしれない。
幸せなラストの、映画には描かれることのないその先を考え、背筋がゾッとした作品。
全てに人間に「大人になるってなに?」と問いかけるのが裏テーマか。
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まさに「未知との遭遇」、センチメンタルの初めて体験を思い出させてくれた一本。
監禁事件などの味付けはあれど、本質は「子どもの眼」だと思う。
あの日あの時の感動のリバイバル、親に成れてもなれなくても忘れていたあの日あの時あの場所のあの感覚。
白紙に新たな発見を書き込む高揚感と、知らないところに来た戸惑い。
主演の男の子が本当に素晴らしく、懐かしさと新しさとの感慨が胸に渦巻き、涙が止まらなかった。
取り敢えず2016年、これは外さずに観て感じて考えていただきたい作品。
脱出するだけでは終わらない
大きくて小さい成長譚
鑑賞後、劇場から出て、無意識的に空を仰いでいました。ああ真っ青だなあ、的な。太陽があって、雲があって、風が吹いているなあ……みたいな。何でしょうね。日常生活が当たり前に送れていることへの感謝?リアルな感覚をリアルなまま感じさせてくれたというか。感情への再ログインを促された、的な?なんか上手いこと言えませんけども。
この映画が取り扱ってるものはドス黒い欲望が渦巻き、その渦巻いた結果の悲劇があって、でもそこに重きは置いておらず、その悲劇から生まれた「不遇な境遇の母子」が、本物の“世界”と対峙し、向き合っていく、というお話です(そのドス黒い欲望ってのは、変態男が17才少女を拉致監禁、長い年月の監禁生活を強いていて、性的虐待は当たり前、て部分です)。
この小さな“部屋”で母子生きていく。こここそが自分たちの“世界”。少年からしたら、100%疑いようもなく、この“部屋”という空間が当然の“世界”であり、普通であり、普遍(これまた“部屋”で産まれてるんですよね)。母親はそれを半分は受け入れ、半分は受け入れていない。
この二人がある切っ掛けで、本物の“世界”に飛び出してからが、物語は本スタートを切る訳です。
“部屋”に挨拶をしてきた少年が、本当の意味でその扉を開き、広大な“世界”を認める迄の、“部屋”へ別れを告げて“世界”に挨拶をする迄の、壮大で小さな成長譚。
少年は無限に続く空の青さを知り、パンケーキの味を知り、人の波を知り、バァバとジィジを知り、他人を知り、コミュニケーションを知り、ここで生きることを誓う。母親もまたそれに寄り添う。母親も強くあろうと誓う。ダメなママだけど、この子のママで居続けようと誓う。
ラストを迎え、エンドロールが終わり、場内に明かりが灯ると「世界だ」と、俺もなりましたからね。実感しましたから。
今日は空が青くて良かったなあ。
「世界」を分けるのはルームだ。「世界」を知るのもルームからだ。
私たちにとって「世界」はルームだ。
誰にとってもルームの壁を越えないかぎり、新たな世界に出会うことはない。それは母親であれ子どもであれ、そして父親であれ同じだ。それぞれの壁の向こう側にある新しい世界は、それまで壁の内側の世界を共有し続けてきたものにとって全く理解できない世界になるかもしれない。
ある者が新しい世界を手に入れた時、ともにいた者が同じように新たな世界を手に入れるわけではない。昔の世界にそのまま居続けるかもしれない。
今まで自分がいた世界が「こんなに狭かったんだ」と言えるようになった時人は新しい世界に出会う。
・・・この映画に登場したどの俳優も素晴らしい演技だった。
アカデミー賞女優のブリー・ラーソンもそうだし、母親役のジョアン・アレンの抑制の効いた演技、娘が誘拐された後、心の葛藤で自分を傷つける父親のウィリアム・H・メイシー、外から家族を見守る(新しい世界への案内人)トム・マッカムス、ショーン・ブリジャースの犯人ぶりも。
そして何と言ってもジェイコブ・トレンブレイだ。子どもに大人びた演技をさせることはたやすい(日本の子役のほとんどがそうであるように)。しかし、子どもに、その無邪気さを演じさせるのは容易なことではない。子ども「が」子ども「を演じる」のだから。
本当に演技なのか、それとも彼自身なのか。それを考えてもかれは素晴らしい「俳優」だった。
扉を開けよ、世界に触れよ!
映画の冒頭、5歳の誕生日を迎えたと喜ぶ母子の姿にタイトルバックが重なって映し出される。原題の“ROOM"という文字が四角い枠で括られていることに思わずハッとさせられる。なぜなら、この母子がどんなところにいるのかをタイトルで見事に説明しているからだ。
この作品は脱出劇であるが、物理面と精神面という2つの面からの脱出を描いている。監禁された母子が如何にして、その場所から逃げるのか?そして、逃げた先で何を見るのか?を時にスリリングに、時にストレスフルに描いている。
監禁された生活など、想像するだけでも恐ろしい。しかし、その監禁部屋で生まれ育った子どもにとっては、そこが世界の全てである。そんな子どもにとって外の世界で初めて見るもの、触れるもの、出会う人は新鮮であると同時に恐怖でもある。一方で母親も監禁される前の世界とは違う“今の世界”に戸惑う。物理的な脱出が出来ても、精神面では未だ囚われの身であるという感情が静かに観客の感性に触れてくる。
彼らが精神的に脱出するためには一体何が必要なのか?途中で私はこの作品がどのような結末を迎えるのか、全く想像がつかなくなった。しかし、彼らは“得ること”ではなく“手離すこと”でその答を見つけ出していく。良いものも、悪いものも大人は無意識のうちに抱え込んでしまうものであるが、子供は純粋な気持ちで答を導き出すのである。このラストシーンに心が揺さぶられる。息子役のジェイコブ・トレンブレイが何故アカデミー賞にノミネートされなかったのか疑問でならない。
人は生きて行く中で、数々の壁にぶつかる。その壁に四方八方を塞がれてしまえば、その空間は部屋となり、行き場を失ってしまう。だが、部屋には扉がある。扉が開けばそこから世界へとつながっていく。その部屋にとどまるか?それともその部屋から出ていくのか?いや、扉が開けばそこはもう“部屋”ではないのだ。
この世界で生きる。
このタイトルには何かあるなと思っていたけど、やはり二重の意味が
あったことを後半で理解する。誘拐・監禁され7年間の生活をしてきた
「部屋」と希望を胸に脱出してきた世界の「部屋」。ニュースで監禁事件
が解決し被害者が無事保護されたとの一報には安堵の空気が流れるが、
果たしてそれで終わるはずがないという後の世界をリアルに描き出す。
母親や親族にとっては辛く思い出したくない過去であっても、息子に
とっては母親と二人だけで過ごした濃密な7年間の過去。監禁犯の男を
いずれ知ることになる未来、自分の出自を呪う事もあるに違いないが、
しかし彼には教えられた世界と傍にいる母親の笑顔が総てなのである。
なんて健気な息子だと子供の視点で描かれる親子の確執の層に涙する。
個人的に実父が娘が産んだ子供を直視できない場面が印象に残ったが、
今作には耐え難い問題が数多く描かれる。そのどれもがいつ自分にも
降りかかるか分からない恐ろしさを備えていることから目が離せない。
被害者はこんな風に事件後を生きているのかもしれないということに、
どうかそっとしておいて下さい。の言葉を胸に命じなければならない
と思った。身内と比べて部外者になる義父が苦しむ妻や義娘と距離を
置きながら義孫を連れ歩く姿は優しく救いになる。いつかあの部屋で
過ごした日々の想い出とトラウマから解放されて幸福になれるように。
特異な環境での難演を見事にこなした二人には心から拍手を贈りたい。
(子供時代の7年間には想い出がいっぱい。子供の心はどこまでも純粋)
子供の成長が地味に感じ取れる
納屋に閉じ込められた親子ジョイとジャックの二人きりの生活が続く中、「モンテ・クリスト伯」をモチーフにし死体のふりで脱出を試みる考えは鋭い洞察力といっていいほど面白い。女性と子供、しかも閉じ込められ満足に栄養をもらえていない体で男に歯向かうのは無理だと判断した上での直観的な行動に理がかなっているようにも思える。
本番はこの脱出劇が終わった後に待っている。この監禁事件に群がるマスコミたちに追われる日々の中で、当分は静かに暮らしたいと願う親子。
着目したい点は監禁されていたのは子供だけではない点だ。ジャックは物心がついた時から納屋からの景色しか知らない、部屋が全てだと信じきっている子供。一方、母親のジョイも何年もの間監禁され深い傷をおっている。二人を客観視するとどうしても子供に感情を揺れ動かされるが、本作が秀逸なのは母親の目線にも立った描写を細かく描けているところにある。そしてここから派生して子供の成長を地味に描けているのも素晴らしい。
子供の素直で正直な気持ちと自身の知らない世界が入り込みすぎて困惑している感情を最大限に引き出す演出。心身ともに限界を感じた母親を見た子供の感情に変化を感じ、その様子が地味な成長へと繋がっているのが垣間見れるのは面白い。
「ドアの前で待っていても、何も変わらない。」
【賛否両論チェック】
賛:〝世界”を知らずに育った息子が、監禁されてきた母親と共に、決死の脱出を図るまでの前半と、世間からの注目を一身に背負いながらも、普通の生活を手にしてからの葛藤を描いた後半。どちらの状況にあっても、親子二人三脚での成長をしっかりと描いているのが印象に残り、感動させられる。
否:展開は結構淡々としているので、好みは分かれそう。暴力シーン等、生々しい描写もあり。
前半は、親子が脱出を果たすまでの格闘を描きます。幼いが故に何も分からず、“世界”という概念を理解出来ないジャックに対して、ジョイが教え方を苦悩する様子が印象的です。その特殊な状況下でなければ起こり得ないその境遇に、なんだかとても切ない感じがします。同時に、無事に逃げ出せるかどうかのハラハラ感にも支配されます。
そして後半は、脱出した親子が世間に注目されながらも、本当の人間らしさを取り戻そうと葛藤していく様子が描かれていきます。ジャックは初めて目にする人や物の多さに驚きを重ね、ジョイは周囲の変化や過熱する報道に戸惑いながらも、少しずつそれを受け入れていきます。そんな2人の成長する過程もしっかりと辿っているのが、またステキです。
ラブシーンや暴力シーンも少しだけありますが、親子の本当の二人三脚の物語を、是非劇場でご覧下さい。
こういう映画に出逢えてガッツポーズ
そして「母になる」映画なのだ!
観終わってから、改めて本作の上映時間を調べてびっくり。
118分である。なんと2時間を切るのだ。
しかし体感としては、3時間ほどの超大作を観たのと、同じぐらいの「ボリューム感」がある。
それはなぜだろう? と思った。
母と5歳の息子が監禁された部屋。
その閉ざされた「ルーム」閉鎖された環境で、人間は、子供は、どのように育つのか?
いわば、これは「もし~だったら」という究極の思考実験であり、極めて残酷な人体実験でもある。
実際、かつて日本でも、何年も女性を監禁していた男が、捕まった事件があった。外の世界から完全に切り離されてしまった部屋で、人間の心理はどのように移りゆくのか? 心理学者にとっては興味深い「事例」なのかもしれない。
しかし、事件に巻き込まれた当事者たちの心は、どうしたら修復できるのか?
本作で、誰もが惹きつけられるのが、子役のジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)である。
その母親、ジョイは、7年前誘拐され、ある男の自宅の納屋に監禁されている。
その「ルーム」には、天窓が一つあるだけだ。ドアもひとつ。
そのドアには、ご丁寧に暗証番号付きのロック機能が付いている。
彼女はやがて、男との性交渉により、子供を身篭った。
そしてこの閉ざされた納屋で出産。
彼女は初めての男の子に、ジャックと名付けた。
息子ジャックにとっては、この世に生を受けてから5年間、この納屋の中だけが「世界の全て」なのだ。
「ルーム」にはテレビがある。唯一、外の世界の出来事を知る術だ。
ジャックはテレビを見て、無邪気に母に質問する。
「あれは本当にいるの? それともニセモノ?」
そのジャックの無邪気さに、観客は思わず、胸が詰まるのである。
やがて親子は、この「ルーム」からの脱出を試みる。
ジャックが、監禁した男からうまく逃げることができるのか?
息が苦しくなるほどの、緊迫感。
その描写。監督の力量がどれほどのものか、このシーンを見れば、その手腕が確かなのが分かる。
実際、上映中、客席のあちこちで涙を拭う光景が見られた。
この作品、母と息子が無事救出されて「メデタシ、めでたし」
と誰もが思う。
ここで映画はハッピーエンドで終わるのだ、よかったね、と誰もが思い込んでしまう。
ハリウッドでのエンターテイメント作品であれば、それでヨシ、となるハズだが、しかし……。
本作は救出劇の後、親子二人に起こる出来事、特に周りの人々や環境の変化を丹念に描いてゆくのである。
監督の狙い、そして原作者であり、脚本も手がけたエマ・ドナヒューが、本当に描きたかったのは、実は、救出されてから後の出来事ではなかったのか? とさえ思えてしまうのである。
本作のスタッフを見ていると、撮影監督にダニー・コーエンを起用している。かれは僕の一押し「リリーのすべて」で、とても静謐で品の良い映像空間を作り出した。
本作は、明らかに低予算で作られた感のある作品であるが、実はスタッフはアカデミー賞をいつでも狙える「必勝チーム」で作られたことがわかるのである。
さて、日本では、世界的にも評価の高い、是枝裕和監督の「そして父になる」という作品がある。
僕は「そして父になる」を劇場で鑑賞した。
なんと気高い精神で創られた作品だろうか!! と圧倒された。
僕は映画レビューで「この映画は人間の善性を固く信じている。それだけでもこの作品を観る価値がある!」と絶賛した。
そして、ぼくは「ルーム」を観た。
母と息子。
息子の父親は誰か?
それは愚問だ。
「この子は、私の子です」母親のジョイは、力強く答える。
父親が誰であろうと、目の前にいる息子、ジャックは、紛れもなく
「我が子」なのだ。
母と息子が本当の家族になってゆく。
その姿を淡々と描いた後半。その愛情のボリューム感に、僕はきっと圧倒されたのだと思う。
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