「扉を開けよ、世界に触れよ!」ルーム ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
扉を開けよ、世界に触れよ!
映画の冒頭、5歳の誕生日を迎えたと喜ぶ母子の姿にタイトルバックが重なって映し出される。原題の“ROOM"という文字が四角い枠で括られていることに思わずハッとさせられる。なぜなら、この母子がどんなところにいるのかをタイトルで見事に説明しているからだ。
この作品は脱出劇であるが、物理面と精神面という2つの面からの脱出を描いている。監禁された母子が如何にして、その場所から逃げるのか?そして、逃げた先で何を見るのか?を時にスリリングに、時にストレスフルに描いている。
監禁された生活など、想像するだけでも恐ろしい。しかし、その監禁部屋で生まれ育った子どもにとっては、そこが世界の全てである。そんな子どもにとって外の世界で初めて見るもの、触れるもの、出会う人は新鮮であると同時に恐怖でもある。一方で母親も監禁される前の世界とは違う“今の世界”に戸惑う。物理的な脱出が出来ても、精神面では未だ囚われの身であるという感情が静かに観客の感性に触れてくる。
彼らが精神的に脱出するためには一体何が必要なのか?途中で私はこの作品がどのような結末を迎えるのか、全く想像がつかなくなった。しかし、彼らは“得ること”ではなく“手離すこと”でその答を見つけ出していく。良いものも、悪いものも大人は無意識のうちに抱え込んでしまうものであるが、子供は純粋な気持ちで答を導き出すのである。このラストシーンに心が揺さぶられる。息子役のジェイコブ・トレンブレイが何故アカデミー賞にノミネートされなかったのか疑問でならない。
人は生きて行く中で、数々の壁にぶつかる。その壁に四方八方を塞がれてしまえば、その空間は部屋となり、行き場を失ってしまう。だが、部屋には扉がある。扉が開けばそこから世界へとつながっていく。その部屋にとどまるか?それともその部屋から出ていくのか?いや、扉が開けばそこはもう“部屋”ではないのだ。