「拓人っぽく言うなら演出が寒い…」何者 ナブラさんの映画レビュー(感想・評価)
拓人っぽく言うなら演出が寒い…
原作の大ファンです。丁度自分が拓人と同じ立場になってしまったので、とてつもなく感情移入して原作を読みました。
まず、俳優陣の演技については素晴らしいと思います。キャスティングのマッチング具合も高く、個人的に小説を読んでいた時に想像していたビジュアルにかなり近く、再現度が非常に高いです。原作のセリフも映画として不自然でない程度にカットされており、それでいて話としてもわかるように構成されているのでここも脚本が劇作家の方というのが、功を奏したと感じました。あと、原作にはなかったと記憶しているのですが、ギンジに拓人が送ったLINEで「生きてるものに通ってるのを脈って言うんだよ」というセリフも上手いなと思いました。
しかし、演出に関しては原作からの改悪感が否めません。そもそも、この作品の最大の面白さはずっと拓人の主観に近い視点で進んだ物語がある経緯から拓人の内面が暴かれ、客観に急転換する部分だと思っていたのですが、あんなに前半から拓人のイタイ奴をバカにしている内面を小出しにしたら、最後の落差がなくなってしまいます。なんであんなにわかりやすい演出にしたのでしょう。勿論今回このキャスティングなら観客に原作未読の方が多数いらしているのはわかるのですが、ここまでわかりやすくしないと伝わらないのでしょうか?最後にどのみち前のシーンを補完するシーンを挿入する事になるんだからこの演出はこの作品の最大の良さを損なう改悪としか言えません。
あと、最後の拓人の内面暴露のシーンは何故あんな演出になったんでしょうか?ホラー映画なんですか?別に本音と建前に落差があるなんていうのは当然の事であり、拓人がああいう本音を抱えていることは責められることじゃないと思います。原作ではイタイ奴をバカにしているお前もそれを誰かに承認して貰えないと精神的安定を保てないイタイ奴なんだってくらいの主張だったのにこの演出ではbgmも相まって、そういった本音を抱えていることが悪いことのように思えてしまいます。前のシーンの補完をただするだけでなく、拓人の思い入れのある舞台調のシーンに変え、舞台という観客に「見られる」という部分が客観への転換を示している為、見せ方としては上手いと感じるのですが、最後に拓人が観客からの拍手を受けるシーンも「お前の鋭さ、みんなに共感されてよかったな笑」みたいな皮肉としか思えません。基本的に所謂映画を撮っているようなクリエイター的なお仕事をされている方は拓人のような人物が好きになれないのはわかりますが、この演出は個人的な感情が出過ぎです。
確かに、拓人の言う通り、「頭の中にあるうちは傑作」であり、映像化が少々難しい作品であることは確かです。しかし、キャスティングを知った時から原作が大好きな為、本当に楽しみにしていた分残念です。何故、原作有の日本映画はこんなに原作の良さを損なうようなしつこい演出をしてしまうんでしょうか?残念です。まあ、ですが、原作未読の方には楽しめる内容ですし、この作品のリアリティやメッセージというのは特に20代には心打つものだと思います。原作の方がオススメではありますが、今作もオススメです。