「物語のお粗末さが悔やまれる良質アニメ」君の名は。 yoqさんの映画レビュー(感想・評価)
物語のお粗末さが悔やまれる良質アニメ
まずこれはアニメ好きが好みそうな雰囲気のアニメだ。ジブリなどの全年代向けとは少し趣が異なる。時折出てくるコミカルな演出などアニメ好きがニヤリとしてしまう点が随所にある。そしてどこかで見たことのあるような画一化された「お約束」キャラクター達。
巫女さん美少女のヒロインをはじめとして、気の強いロリキャラの妹や、メガネ美男子で世話焼きの親友などが典型だろう。
(これは人物設定を分かりやすくして説明を省く映画手法なのかも)
またタイムリープで恋人を救うというベタなストーリーはアニメ業界では手垢のつくほど使い尽くされたテンプレート設定だ。
極端に言えばオタクが受け入れやすい作品とも言える。しかしそれらオタク要素をくど過ぎ無い程度にスパイスとして加え、有名アーティストの歌を前面に出して大衆に受け入れられるよう上手くバランス調整ができている作品。
感想を一言で言うなら「物語のお粗末さが悔やまれる良作」。各要素は輝いており、部分部分は優良エンターテイメントアニメと言えるだけに非常に惜しい。作画演出はとても綺麗なのに。テンポも良く、映像と音楽のシンクロも最高なのに。美男美女の時空を超えた運命的な結びつきという設定も恥ずかしくなるくらいだが、エンタメとしては王道。
入れ替わりなどについて矛盾だらけというレビューを多くみかけるが、科学的な辻褄は理屈をこねればいくらでも合わせようがある。ファンタジーと割り切れば時空交換に関する数多のご都合もあまり気にせず、楽しく受け入れられた。実際二人の入れ替わりにはとてもワクワクドキドキした。
また恋愛に関する心の機微が足りないとの指摘も多いが、恋愛アニメとしてはこの程度の説明でも互いに恋心が生じることについて納得できる範疇であると思う。(あくまでオタク基準ではですが…)
物語は主人公二人の想いに強くフォーカスした作りとなっている。その部分だけ勢いが突出していてストーリーをぐいぐい引っ張るが、物語の筋においてお粗末さが目立つ。それは後半にいくほど顕著だ。
矛盾は大小様々見受けられるが、特に私はクライマックス前の展開にどうしても共感できず、その後ずっと違和感に捕われ続けたまま終焉を迎えてしまった。監督という神が無理に物語を進めている様が見えてしまい興ざめしてしまったのだ。最後まで引っかからず没頭できた人が羨ましい。おそらく感動の涙を流したであろうエンディングを冷めた目で見ている自分が悲しかった。
勢いによって思春期前後の若い視聴者の心はがっちりとらえた一方で、多数の矛盾点を無視できないというような目の肥えた大人たちからは酷評が噴出している。そんな映画だと思う。
もう少し丁寧な作りであったなら本当の高評価を勝ち得たのにと悔やまれるとても「惜しい」作品。次回作に期待しています。
以下私の引っかかった点についてのグチです。
(ネタバレあり)
三葉の友人二人が人々を避難させるために犯罪行動を起こす流れについて、浅はかすぎると感じてしまい、腑に落ちず違和感を押さえきれなくなってしまった。
いくら三葉の事が好きだからといって、いくら若さゆえで大人に反発心があるからといって、また百歩譲って彗星の壁画を事前に二人が見た可能性があるからといって、あの犯罪行動は絶対に起こさないと感じた。あれをやったら人生が終わる。確信の持てない状況でその選択をするとは到底思えなかった。
B級ハリウッド映画によく見られる「無理矢理ご都合クライマックス」でまとめてしまったようなお粗末さ。
せめてもう一つだけ設定を加えてほしかった。未来の惨劇を友人二人が何らかの方法によって100%確信したという場面を追加するだけで筋は通ったのだ。
色々な考察サイトを巡ったがこの点に関しては妥当な回答が見当たらない。だれか多少無理にでも理屈をつけてくれよと叫びたくなる。そうすれば夢から覚めずに泣けたのに。