「文学は理屈ではない」君の名は。 king mannequinさんの映画レビュー(感想・評価)
文学は理屈ではない
この映画は大ヒットしたので穿った見方をするのが通だとでも言わんばかりに皮肉めいた感想を書くオッサン、オバサンがいるが(俺も年齢はオッサンだが)、この映画は理屈でどうこう言う映画ではない。プロットでヒットしたのなら「シュタインズゲート劇場版」や「まどかマギカ」も同じかそれ以上にヒットしなければいけなくなる。
この映画の本質は普段は恥ずかしくて口に出せないような思春期のピュアなときめきやまだ見ぬ運命の人への憧れであって、まさに新海監督の作家性であり真骨頂なのだ。確かに一見すると、ミュージックビデオ風のシーンや巷に溢れる軽いテレビアニメ風のシーンも多く、違いが読み取れない人も多いかもしれないし、細田監督の映画などからの影響も見受けられたが、この映画の価値の本質はそこではなく最後の10分なんだと思う。あの最後の10分が「新海文学」を世に知らしめて大ヒットに繋げたキーポイントなんだと思う。
満員電車の目の前に身体が触れる距離で立っているのに何光年も離れているのような絶望的な3年分の心の距離。そして淡い記憶の中の運命の人に見つけてもらうために毎日赤い組紐を髪に付けて日々を過ごす、どこにでもいる女性と、やっとその人を見つけて走り寄ったが拒絶を恐れ、言い出せずにすれ違った後に勇気を振り絞ってやっと話しかける青年。
こんな昭和の純文学のようなナイーブさや心の距離感の機微こそが新海監督の作家性なんだと思う。こんな瑞々しい青春のときめきを新海監督は何故忘れずにいられるのだろう。
この映画の本質はこれほどヒットするような分かりやすいキャッチーな物と言うよりは村上春樹的な繊細な心情を描いた純文学作品であり、それを十代の若者に受けるように作った物が「君の名は。」なんだと思う。いずれにせよ大ヒットを狙うならジブリ的な家族向けの童話を作るしかなかった日本のオリジナル劇場版アニメに新たな道筋を作ったのは明らかであり、作品の多様性という意味でも今作の大ヒットは非常に良い事だと思っている。
「文学は理屈ではない」などと言い出した時点で映画評論は何を言おうと勝手だということになります。理屈で分析できる部分と理屈だけでは説明しきれない部分があるというほうが正確でしょう。この作品は残念ながら理屈で分析すると「うまく金儲けした作品」としか評価できないと思います。
@ゴンベッザ
だから「本当の文学」とか言っちゃってる時点で表層的な形式に囚われていて
何一つ分かってないんだよなあ。よりシンプルなシステムのジュブナイルにしか
ない良さというのは確実にあるし、シンプルさが曲がりくねった迷い道を一気に
抜け出す突破口になったりもする。少なくとも本作のように上手く使えば多くの
人を惹きつけるカタルシスを産み出す事が出来る。そこには「本当」も「嘘」も
なく否定する事は虚しいだけです。思考や感覚の硬直というのは、まさにそうして
迷い道で彷徨ってるような人の事を言っているんですよ。
まあ、色々言いたいけど唯一言うとするなら、
あなたが言う「心が錆びた人間」が創る映画やお笑い、本、発明なんかが本当の文学だし、後世に残る大傑作や大発明の発想の根源なんだぜ。って事っすね。