「新海監督の良いところも、そして悪い癖も。」君の名は。 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
新海監督の良いところも、そして悪い癖も。
新海誠作品は「秒速5センチメートル」で完全にヤラれた。「言の葉の庭」とても良かったし、映像の美しさ、そして世界観の繊細さ含め、私が愛する日本のアニメーション監督の一人だ。ただ、そんな好きな監督の作品だが、彼の作風でどうしても許せないことが一つだけある。それは毎回必ずミュージック・ビデオ化してしまうことだ。「秒速5センチメートル」は山崎まさよしの「one more time, one more chance」、「言の葉の庭」は大江千里の名曲を秦基博がカバーした「Rain」という具合に、気が付くといつも映画が途中からPV化してしまっていた。新海監督と私のロマンティシズムは共通項が大きく、センシティブで情緒的な世界観やストーリーは本当に大好きなのだが、映画が突如PVに変わった瞬間に、毎度興醒めしてしまう自分がいる。今回はRADWIMPSだ。物語が盛り上がり、気持ちが昂ぶり、心が感動し始めた一番気持ちいいところで必ずRADWIMPSの歌声が流れ出し、気取ったPV調の演出に流れていく。そしてその都度、私はは興醒めしてテンションが一気にクールダウンしてしまうのだ。いや、RADWIMPSは何も悪くない。本当に何も悪くない。ただその演出方法があまりにもあからさまでわざとらしくてとにかくクサいのだ。
間違ってほしくない。私は本当に新海監督が大好きだし、新海監督作品も大好きなのだ。ただ、大好きな新海監督作品の手法の中で、唯一許せないポイントがまさしく「そこ」で、今回はその許せないポイントが目に余ってたまらなかったのだ。
物語は面白くできていた。幻想的でファンタジックでありながら、日本という災害大国ならではの価値観と概念を踏まえて紡ぎあげるストーリーには、いくらでも心動かすことは出来た。しかしその度に、PVみたいな演出が邪魔をして感動が盛り下がり、ちょっと飾ったようなカッコつけた演出と編集が目障りで仕方ない。「大丈夫だよ。監督の伝えたいことは、そんなことしなくてもちゃんと伝わってるし、監督の紡いでいるストーリーはちゃんと心に響いてるよ。だからもうそういう装飾はやめてもいいんだよ」とホットミルクでも出して肩を優しく叩いてやりたくなる(何様だ?)。すっごく良かったんだけど・・・と、「だけど」をつけたくなってしまうこの思い・・・。
やっぱり新海監督には、素朴で繊細な短編か中編をやってほしいなぁ、と思ってしまうのは傲慢なファンの勝手な我儘かな?
少なくとも、音楽が鳴るたびに映画をPV化させてしまう癖だけは、どうにか映画として昇華させてほしいと、心から願っている。