「とてつもない名作」グランドフィナーレ Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
とてつもない名作
歯列矯正中の女の子は、テレビゲームの前で踊る。しゃべらなくても皮膚に触れれば全部わかるから。
チベットの僧侶もしゃべらない。自然と調和すれば全部わかるから。
でも、たいていはそうはいかない。
私たちは自分自身を見つめるために、他者を必要とする。他者との会話の中の、無意識の語らいの中で、自分自身を発見できる。
無気力症の作曲家、皮肉屋のロボット役者。彼らは代表作があるがゆえに、世間と自分がずれている。それが欲求不満となり、どこかあきらめた雰囲気が漂う。
しかしある時、子どもとの会話をきっかけに自分自身の欲求のありかを見つけることができる。
そんな療養所で、老年の映画監督はスタッフたちと語らいながら新作づくりに奮闘している。そして、旧知の女優との会話の中で自分自身を認識してしまう。
表面は罵倒し合っても、この二人の地下には、友愛の水源が流れていたのに。
「どうせ理解されない」「どうせ無理」というあきらめは、人を死へと追い込む。そんな外界の恐れを払拭し、皮膚一枚で仕切られた内界を活力で満たすこと。たとえ皮膚が老いていようと、それが本当の若さだ。
だから原題は「youth」。邦題は全然ピンとこない。フィナーレを描いた映画ではない。
真夏を過ぎた初秋の太陽は、人の老年期にも似て、豊かで暖かく人々を魅了する。作曲家と映画監督の会話は、まさに心地よい音楽のようで、いつまでも聴いていたかった。
四季おりおり回転する太陽のように、人生もまた回転する。
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