「悪い奴ら世にはばかる」日本で一番悪い奴ら 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
悪い奴ら世にはばかる
今年の初めに上半期のラインナップに目を通した時、一番興味惹かれたのが本作。
なので、てっきりミニシアターと思っていたから、地方の我が地元の映画館でポスターを見た時、メチャクチャ興奮してしまった。
別に基となった事件をよく知っているという訳ではない。
でも、堪らないほど興味は尽きない。
2002年、北海道警で起きた日本警察史上最大の不祥事。
さらに、監督が実録犯罪映画の傑作「凶悪」の白石和彌。
期待するなと言う方が無理!
映画的に脚色してあるとは言え、びっくり仰天!
警官が、あんな事こんな事、悪い事しまくり!
よく26年間も逮捕されなかったもんだ!
こりゃあ警察にとってはとんでもない大スキャンダル。
それをよく映画にもしたもんだ!
で、その作りがまた面白い。
この映画、真面目にやったら、それはそれは重苦しい作品になっていただろう。
それを、笑いを交え、爆走感溢れるエンターテイメントに仕上げたのがユニーク。
「凶悪」のシリアス&ハードな演出から一転、白石監督、なるほど、こう来たか!
最初は犯人の車を追跡中もシートベルトを欠かさない、お酒も飲まない、うだつの上がらないウブだった警官が、暴力捜査、恐喝、でっち上げ、薬物違反、銃刀法違反…あらゆる犯罪に手を染めまくり。
良いのか悪いのか、主人公がどんどん悪くなれば悪くなるほど映画が面白くなるのだから困ったもの。
「ナイトクローラー」的な、アンチ・サクセスストーリーが痛快愉快!
全編ほぼ出ずっぱり、主人公・諸星の26年を、綾野剛が大熱演!
警官と言うよりヤクザにしか見えないほど、最初と最後じゃ、見た目も言動も大変貌!
年末の映画賞でノミネートはまず間違いナシ!
綾野剛はこういうクセある個性的な役をやってこそ!
ガッチャマンや五右衛門は忘れてプリ~ズ!
中村獅童、ピエール瀧、お笑い芸人のデニス植野行雄ら脇も負けないくらいの個性的な面々。
中でも、諸星の舎弟を演じたYOUNG DAISが印象に残る。
反則的な出世技さえ覚えれば、警察社会なんてポイント稼ぎ。
ス~イスイとあっという間に頂点へ。
俺の街、すすきの。
我が物顔で歩き、ヤクザたちが道を開け、ペコペコ頭を下げる。
気持ちいいんだろうなぁ~。
が、常に修羅場、危険な綱渡りの連続。
別にネタバレってほどじゃないが、これまで積み重ねてきた悪事のしっぺ返しが当然のようにやって来る。
頂点からこれまたあっという間に堕ち、身の破滅…。
悪徳警官が逮捕されて絶対的に正しいのに、何故だか分からないモヤモヤとした気持ち。
諸星の愚かな行為は人間誰しもある邪な部分を肥大に具現化した姿であり、また彼は仲間思い。
ヤクを捌いているのにも関わらず、仲間に「シャブだけには絶対手を出すな!」と念を押す。(が、しかし…)
ラストで、事実を知らずに舎弟への気遣いは胸を打った。
一体、何処で道を間違えたのか。
それは諸星の野心や歪んだ正義感もあるが、ここでタイトルの“奴ら”が関係してくる。
諸星に荒んだ道のイロハを教えた先輩。
諸星の違法捜査を承認、時にはハッパをかけた上層部。
諸星の逮捕でまるで彼一人の罪のようだが、属する組織も同罪。
警察全てがそうじゃない事は勿論分かっている。
「公共の安全を守り、市民を犯罪から守る」
劇中でも掲げられていた美辞麗句に偽りは無く、警察は善であると信じている。
そのほんの一部…。
侵食した闇は、暗く、深い。
ラストのスーパーは、そう思わずにはいられない。
とても人にオススメ出来る感動作じゃないし、為になるような素晴らしいメッセージも無い。
でも、この不謹慎な面白さ!
期待していた甲斐があった!
上半期のトリ、上半期のBEST1現る!
このまま年間BESTまで突き進め、悪い奴ら!
(芸能人の薬物逮捕が続く今年に公開されたのも皮肉な巡り合わせ)