鑑賞後、ちょっと自分を好きになれそうな気がしました。拍手をしたくなりそうな気がしました。
でも、しない(笑)。自分を好きになりそうな気がするっていうのも、すぐに風に飛ばされていきそうです(笑)。
それまではいろいろなことがあって、これからもいろいろなことがあるんだろうけれど、きっとこうして生きていくんだろうというちょっとした勇気を、勇気って言うほど大袈裟ではないけれど、そんなちょっと口角が上がってしまうような気持ちを頂きました。
「力を借りて、しがみついて、嘲笑って、怯えて、裏切られて、手をとりあって」という、拓郎さんの歌詞そのままあてはまるようなエピソードが詰め込まれています。
原作『ファミレス』。原作未読。
ファミレスって、以前は唯一乳幼児も連れて入れる、様々な人が様々な使い方ができるダイナーでしたね。そして、普段着で入れるし、お茶の間のごとく、様々な人生の場面に使われました。
エンディングで、登場人物がその役柄にあったファミレスの利用の仕方をしていて、歌詞をつないでいく。ここだけでも見ものですが、その前の物語をみていないと、阿部さんが、天海さんが、冨司さんが、奥貫さんが、相武さんが、菅野さんが、この歌のあの部分を歌うことの絶妙さがわからないから、本編も合わせてご覧ください。
話は等身大の人々の話です。だから、感情移入しやすいし、身につまされます。不倫までもが映画や小説の中、特別な事情だけの出来事ではなくなったのが悲しいですが。
当事者にとったら笑いごとではないのだけれど、その役を役者がきっちり演じてくれるだけに、ユーモラスです。
笑いも、軽い(笑)、シニカルな(笑)。吹き出しそうな(笑)。自分を振り返って困った(笑)、演出がはずれての失笑。様々な笑いが散りばめられています。
そして涙も…。
演出は、ベタ。
シーンごとにみると、余韻のある素敵な場面もある半面、
狙いはわかるんだけどもたついている場面、
ドンにそういう表現をさせるのは臭すぎる、せっかく繊細な表現ができる役者さんなのに持ち味殺しているよという場面もあり、一定していません。
特に、えみちゃんをもっと動かしてもいいと思うんだけどなあ。勿体ない。
エンディングも、歌を出演者でつないでいくところはとっても良かったと思うのですが、集まっての大合唱はいらなかったと思います。カーテンコールのつもり?座ったままでの大合唱の方がふだん使いのファミレス、日常の中に溶け込んでいると思うのですが?
と、突っ込みどころも満載。でも、さすがうまい役者を揃えていて、阿部さんの演技・天海さんの演技・菅野さんの演技・冨司さんの演技だけで笑えます。
主人公宮本。
心では一杯感じて考えるんだけど、それがぐるぐる回って、行動できないで、実際に言葉に、行動に出てくるのは、思っていたことと若干ずれている男。
だからかなあ、妻や習い事仲間・生徒とのやりとりでも「そうじゃなくって!!!」と膝を叩きたくなる場面満載。
そういう場面が続くと普通はイライラするのに、なぜか阿部氏演じる宮本を見ていると、苦笑しながらも赦してしまうから不思議。
天海さんも絶品。このあまり動きのない、ラストまで真意のわからぬ妻が見事。
予告にもあるフェイスマスクは本当に(笑)だけでなく能面のようで効いています。駅での語りはつい動きながら語ってしまって、ここだけ、おう!舞台女優!!!になっていました(笑)。私には違和感なのだけれど、ギャグのつもり?
冨司さんはいつもの安定感。この方が入ると映画に品が出るし、しまります。エンディングの歌、一番うまかったです。
そして、菅野さんてこんなに綺麗でしたっけ?綺麗なのは知っているけど、私鑑賞史上最高に美しい。役もばっちりハマっていました。
相武さんも失礼ながら、こんなに演技うまかったっけ?頂いたフライヤ―に載っている表情だけでも、息を飲みます。
この他の方々は、「頑張れ」ハンコをあげたくなるけど、映画を楽しむ分には遜色なしです(笑)。(何様や?)
人生後悔したくないと、ベストな正解を求めてしまいがちだし、学校でも「ベストを尽くせ」と教わります。その為に努力しなければと。でも、なかなか、何が正解なのかわからずに、迷う日々。自分で決めているようで、流されていて、でもやっぱり自分で選択している(選ばないという選択方法もあり)。多くの人たちは今日までそう生きてみています。
で、失敗を重ねても、時に逃げ出しても、本当に自分が大切なことに半歩踏み出して、周りが変わっても変わらなくても、私も変わったようで変わらないで、でも変わって、明日もこうして生きていくんだろうな、それでいいんだよ、と思わせてくれました。