「テーマ性>娯楽性>技術性に軍配」スポットライト 世紀のスクープ ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマ性>娯楽性>技術性に軍配
どの作品がアカデミー賞を獲るのかを予想するのは難しい。作品の娯楽性が優先されることもあれば、技術の高さが優先されることもある。極端な言い方をすれば、アカデミー賞は作品自体の質のみでなく、アメリカの今が反映される映画賞でもあるからだ。
今年のアカデミー賞を獲得したのがこの『スポットライト』という作品であるが、はっきり言って娯楽性は低い。技術的に目を見張る演出も乏しい。しかし、神父による児童への性的虐待を暴くジャーナリストたちの活躍を描いた本作はアメリカが抱える問題点を指摘した。宗教を重んじるアメリカ人が本作から受けるショックは我々には分かり得ないほど大きかろう。つまり、今年のアカデミー賞は作品が取り扱ったテーマの重さが重要視された年だったのだ。
この作品の面白さはジャーナリストたちの見えない悪と戦う姿を描いていることだ。主人公たちはあくまでも記者であり、警察や司法の立場にない。どんなに有力な証拠を掴んでも、立件できないもどかしさがある。物語は淡々と進む。性的な悪戯をした神父たちとの激しい舌戦もなければ、被害者感情に過度に肩入れすることもない。故に自社の記事で真実を公表することこそが彼らにとっての最大の武器となる。そして、その武器を作り上げることが如何に大変なのか、言論の自由をもってしても、教会という巨大な権力に挑むことが如何に困難であるかを観客は疑似体験するだろう。
これがアカデミー賞か?という声も聞こえてきそうな気がするし、決して心地の良い作品ではない。しかし、エンドロール直前に映し出されるあるリストを見て、この作品の持つテーマの重さと、今尚続く問題の大きさを実感せざるを得ない。このアカデミー賞は言論・表現の自由を信じ、実際にこの記事を書き上げたジャーナリスト達の勇気と努力を讃えたものに他ならない。