エイリアン コヴェナント : 映画評論・批評
2017年9月12日更新
2017年9月15日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
アンドロイドと監督の残酷性が一体化した、エイリアンの原点回帰!
御歳79歳の巨匠リドリー・スコットにとって、いわゆる「2」や「3」「4」は無きに等しい。それは映画史上もっとも恐ろしいクリーチャー、エイリアンの生みの親として、第1作目の「エイリアン」(79)に対する徹底した自己言及ぶりを見れば明らかだ。およそ30年ぶりにSFジャンルに戻ってきた「プロメテウス」(12)では、「エイリアン」に登場する蹄型の宇宙船と、その中で化石化していた巨大異星人に着目し、かの禍々しき怪生物が生まれる起因を描いた。そして今回の「エイリアン:コヴェナント」で「エイリアンがなぜあのような容姿に?」という核心へと距離を縮めている。
西暦2104年。惑星オリガエ6に向かう途中の入植船コヴェナント号は予期せぬ事故に遭い、船長ほか47名の入植者を失ってしまう。残されたクルーは移住計画の見直しを図るが、その過程で「カントリー・ロード」を奏でる謎の発信音を傍受。出所を探ったところ、目的地の近くに移住可能な別の惑星を確認する。彼らはそこへ調査のため降り立つものの、現地で謎の生物の襲撃を受け、さらにはアンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)と遭遇する。
デヴィッドの登場からも分かるとおり、本作は「プロメテウス」から10年を経た地続きの世界だ。しかも彼こそが、エイリアンを完成型へと導く一翼を担うのである。開巻、デヴィッドは創造主であるウェイランド社長(ガイ・ピアース)との対話を通じ、自分が人間より優れた存在であることを確信する。その彼が向かう先は、己れが創造の神となることーー。この戦慄めいた「負のサイクル」に心底スリルを覚えるには「プロメテウス」の事前観賞は必須といえよう。
また「サイクル」ということでは、本作はエイリアンの原点である「恐怖」に立ち戻り、ブルータルな地獄絵図を展開させている。クルーが血だまりに足をとられ、ネオモーフ(ゼノモーフ(成体)の前段階のエイリアン)の猛攻にさらされるシーンや、レクター博士も尻込みするようなデヴィッドの生物実験室など、内臓感満載のおぞましいイメージが観客を憂鬱な気分にさせる。後半、物語の主導権を握るダニエルズ(月亭方正似が愛らしいキャサリン・ウォーターストン)のヒロイン像も、リプリー(シガニー・ウィーバー)の鋳型と見事にマッチする。
いやぁ、それにしても これが傘寿を迎える老君の作品とは到底思えない。狂気にして荘厳、保守性など微塵もない、現代にも適合する優れたSFセンス。恐るべき創造の神は、リドリー・スコット本人に他ならないのだ!
(尾﨑一男)