「.」リップヴァンウィンクルの花嫁 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅(CS放送)で鑑賞。殆どのシーンを照明無し、6Kのカメラで撮影し、2Kに落とし仕上げたと云う。この画面が今迄と違って見えた。一言で評するなら劣化だ。お得意だった柔らかい光は硬質さが取分け際立ち、よく使われた逆光やソフトフォーカスも美しくなかった。そして何故かアングルが固定されておらず、微妙に揺れ続けている。心情の不安定さや世界観の揺らぎの様なのを狙ったとしたら、お世辞にも巧く行ったと云えない。180分と云う尺は気にならなかったが、全体に迷い続けて作った感があり、何とも残念な気分になった。60/100点。
・日本国内での実写長篇撮り下ろしは、『花とアリス('04)』以来12年振りとなる監督だが、何かに遠慮している様な作りで、らしくない作品になっている。出来ればこれ迄の様なもっと突き抜けた表現が見たかった。ただこれぞ岩井節とも云えるふんわりとした雰囲気の世界観にドキッとする残酷で辛辣な展開やエグ味、それらと対照的なとぼけたユーモアは本作でも健在で、これらのスパイスが無ければ全くの凡作に没していたと思う。
・一つのクライマックスを迎えるりりィ扮する"里中珠代"宅、霊前でのシーンが印象的だが、綾野剛の“安室行舛”がよく判らない。演技的な問題なのかもしれないが、他人行儀でビジネスライクだった筈が、泣き崩れた後、一挙に乱れる。泣き始めた時、哂い出したのかと最初思った。このキャラクターはクライアントとして知り合った“皆川七海”の黒木華の離婚を画策し、仕掛けた後、欺く様にCoccoの“里中真白”の元へ送る。余程のやり手なのか、はたまた商売以外は純真なのか判りかねる。因みに酒盛りの涙は、あの場を繕う嘘泣きと解釈した。
・本作のもう一つの特徴は、“皆川七海”が泣き虫な事。監督の過去作でこれ程、度々涙をすするシーンが登場するキャラクターは記憶に無い。亦、“ランバラル”に“アムロユキマス”と云う役名は云う迄も無く、某アニメからの捩りだろう。“里中真白”の屋敷には、さり気無くそのアニメのコスチュームが掛けられており、スタッフロールにはアニメを作った“株式会社 サンライズ”がクレジットされていた。
・演者達自身も撮影中は、ストーリーか判らなかったと云う本作には、監督自ら書き下ろした『小説版』に加え、約120分の『配信限定版』、一話約50分の全六話から成る『serial edition版(“皆川七海”が派遣社員で嘘つきだったり、ストーリーが大きく異なるらしい)』、更に約120分の『海外版』が存在し、それぞれが同じ配役乍ら、独自にカット・追加されたシーケンスがあるらしい。監督曰く、どのバージョンを観ても完結しないようになっているが、時間が無い人には全ての要素を盛り込んだ『海外版』がお薦めだと云う。
・鑑賞日:2017年3月26日(日)