劇場公開日 2016年3月26日

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「幸せとは仮面を並べていく過程に過ぎない」リップヴァンウィンクルの花嫁 全竜(3代目)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0幸せとは仮面を並べていく過程に過ぎない

2016年11月1日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

内向的な性格で両親もとうに離婚し、天涯孤独の契約教師・黒木華は、SNSを通じて、ようやく彼氏ができ、愛でたく結婚。

しかし、不遇な人生ゆえに黒木家側に披露宴へ招待する客が皆無。。。

面目躍如のため、サクラを集める派遣会社の社長・綾野剛と知り合いフォローしてもらう始末。。。

船出早々に、暗雲が立ち込めた結婚生活は、案の定、直ぐに破綻。

再び独りぼっちに戻り、泣くじゃくる彼女は、綾野社長が斡旋してくれたサクラ派遣業のバイトで擬似家族を演じて食い繋ぐ。

そんな日々の中、同僚のCoccoと知り合い、交流を深めていくが、彼女には知られざる秘密があった。。。

『ラブレター』『リリィ・シュシュのすべて』etc. 独自の作風を確立している奇才・岩井俊二の久々の最新作だったが、三時間の長丁場がネックで劇場公開時はスルーし、ようやくDVDでダラダラ鑑賞したけど、、、

う~~ん、当たり前やけど、やっぱり長いね。。。

しかも、浮気を巡り、姑を交えた夫婦のイザコザは昼ドラを彷彿とさせるドロ沼模様で辟易してしまう。

でも、クタビれながら最後まで観ちまうのは、岩井俊二ワールドの不思議な魅力である。

結婚式は幸福の頂点を意味する最大のイベントだが、出席して祝福する他人にしてみたら、あの白々しい雰囲気が、如何にも《偽善》を醸し出しており、友人の披露宴に何度か招待される度に、居心地の悪さを覚えて仕方無い。

其処に、ネットのコミュニケーションが絡む事で、更に軽薄さが浮き彫りとなっていく。

残酷と愛しさが気だるくも繊細に交錯する危ういバランスこそ、岩井俊二の描く美しさの真骨頂であり、其の脆い世界の象徴が、友人を演じたCoccoの存在と云えよう。

破天荒で明るいけど、何処か切なく、ひび割れた胸から絶えず狂気が溢れて、何をしでかすか理解できない哀しさ。。。

花と毒、他人と友人との違いとは?家族とは何か?を問うやり場の無いメッセージは、名曲『樹海の糸』を歌っている時とは異なる温度で、観る者の心に乱反射して、居残ってしまった。

人間のハートは繊細で絶えず壊れそうな物で、いつ壊れるか解らず、誰もが不安で仕方無い。

其の焦りをネットやセックスを通じて、確かめては、忘れたがる虚しい生き物が人間である。

束の間の共有を求めて、今、自分が何をできるのか?

私自身も天涯孤独な人間なので、緩やかに今後を突きつけられた様な三時間であった。

では、最後に短歌を一首

『春来れど 仮面並べる 脆い風 白々し笑み もたれて青く』
by全竜

全竜(3代目)