「ハッピーエンドのその後」人生は小説よりも奇なり 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ハッピーエンドのその後
ジョン・リスゴーとアルフレッド・モリーナというおじさん同士の同性結婚を境に、職を失くし、家を追われ、新婚早々それぞれ別の宅へ居候する羽目に合う。とは言え、この映画は何も、同性愛者に対する差別や偏見、そして生きにくさを訴えるようなそんな作品では全くない。ましてや、ゲイのおっさんが居候先の家庭をかき乱す無粋なコメディなんかでもまったくない。同性カップルの結婚という「ハッピーエンドのその後」を温かくもシビアに見つめた作品になっている。
彼らには当然子供がいないので、次のアパートメントが見つかるまでの間、必然的に友人や親類の家に間借りすることになる。結婚式では盛大に祝福してくれた家族さえ居候となると話は別で、ゲイの叔父との同居生活がは煙たがられるし疎まれていく。同性カップルも当人だけで生活が成立しているうちはそれでいいのだけれど、例えば老いて人の手を借りなければ生活できなくなったりした時の、現実的な寄る辺なさのようなものが垣間見えて、やけに切なさが滲む。しかしそれは別に同性カップルに限った話ではないとすぐに気が付く。
子供を産むわけでもないのに、どうして同性愛者が結婚する必要があるのか?という声を聞くことがある。そしてこの映画は確かに、結婚をしたけれど結婚生活などままならないで終わってしまう。それでも39年の同棲生活が育んだもの、長きにわたって務めた学校の教え子たち、描き続けた絵画など、彼らが人生を通じてこの世に遺すものは数知れない。そしてそれを受け取る存在としての「甥っ子」の存在がカギになる。
最後にカップルの一人が長かった人生の席を立つ。子供もいなかったし、個展も開かなかった。だけど彼の生きた証が、ささやかに次の世代に引き継がれ、新しい愛の芽生えと重なる優しいエンディングに心救われる。