「もえるVSもの」シビル・ウォー キャプテン・アメリカ SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
もえるVSもの
アメリカの「今」を考えると、「シビルウォー」というタイトルはあまりにタイムリーで、観る前から心がざわざわした。
が、内容は(もちろん個人的な感想だが)それほど現実の政情を反映したものではなく、むしろもっと普遍的な「内戦」の構造を描いたもののように見えた。
端的に感想を言えば、面白かった! ヒーロー達が二陣営に分かれて戦う壮大さは、映画館で観る価値のある映画だと思う(比較しちゃ悪いと思うが、日本の特撮ヒーローのVSものとはまるで違う)。
戦闘シーンが一番あがる。これまでのシリーズと比較して、ずっと分かりやすくかつ面白い戦闘になっている。視点がうごきまくって分かりにくいということがない。たぶん、巨大戦艦とか大量の雑魚キャラとかがいなくて、純粋にヒーローたちとヒーローたちの戦いだからだと思う。
注意点として、ウィンターソルジャーとAOUのストーリーを復習しておかないと序盤の展開についていけない。
正直、アベンジャーズシリーズはAOUからストーリーには期待しないでおこうと覚悟を決めていたのだが、終盤の展開にはそれなりに驚かせられた。
キャプテンとアイアンマンの対立なんてAOUと同じだし、今回も結局最後は黒幕を2人で協力して倒して終わりでしょ(そう言えばDCのバットマンVSスーパーマンもそうだったなあ)、と思っていたのだが、そうではなかった。
「黒幕の策略で正義のヒーロー同士が戦う」という展開は個人的には好きではない。黒幕の策にはまるのもバカみたいだし、ちょっと話し合えば解決するのに、それをしないというのもおかしいから。
でも、今回の場合は、そうなりそう、と思わせつつ、そうならない話になったところに意外性があって面白かった。
キャプテンとアイアンマンの対立の理由も、ちゃんとこれまでのシリーズで伏線が張られていたものが回収された形で、無理やり感が無い。
黒幕である犯人の人物像も面白いと思った。自分は非力な一般人だけど、こんな非力な自分が超人の集団に報復するには、仲間割れさせるしかない、という発想。
まあこれまでのヒーローものでもこういう発想をする悪役はあるあるなんだけど、単なる小悪党ではなくて、家族を愛する小市民だからこそ、そんな行動を起こした、ってとこが面白い。
キャプテン側とアイアンマン側に分かれて終わりなんで、後味悪くなるはずなんだけど、ブラックパンサーが「憎しみの連鎖を断ち切るために許す」と苦渋の決断をすることで、彼らの「前進」を示したのは良かった(ちなみに、キャプテンの、仲直りしようね、的な手紙は蛇足だったと思う)
ここからは不満だった点をだらだら挙げていく。全般良かったけど、やっぱり気になってしまう点もあったので…。
序盤で、キャプテンが国連の規制に反対するのがどうにも変で仕方がなかった。核ミサイルなみの力を持った自警団に、行動の意思決定がまかされてるのって、やっぱ怖すぎるって普通に思うんだが…。
最終的にキャプテンが正しかった、ってなるけど、それは規制されるべきか、そうでないか、とは別次元の話だし。
キャプテンの意見に説得力を持たせるためには、規制されることの負の影響をちゃんと語らなければならなかった(国連側の判断が間違っていたとか、そんなストーリーによってではなく)。それを語らず、単に親友を救いたいから、という理由で単独行動をとったのは、キャプテンの落ち度と言われて仕方ない。
アントマンとスパイダーマンの扱いが、単なるにぎやかし以上のものではないところが、ちょっと残念だった。アベンジャーズの面白いところは、いろいろなヒーローの世界観が混じり合って、ストーリーも複雑にからんでいるところだと思うので。
特にスパイダーマンは、単独作品に比べ、「劣化版」の印象。変身後の動きがまるでCGアニメみたいだと思ってしまった。スパイダースーツがぴったりすぎるからかな? 人があれを着て動いているようには見えなかった。
今回、ウォーマシンが後遺症がのこる怪我をした、というとこで終わったけど、あれは映像的にも、ストーリー的にも、死ぬべきでしょ…、と思った。
「シビルウォー(内戦)」てのは仲間内で殺し合うってことだし、両陣営、それを覚悟して戦ってる、ってことじゃないとおかしい。そして、一度戦いをはじめたら、お互いに犠牲者が出ることによって、容易に終わらせることができなくなる、ということだ。中途半端に怪我で終わらせたら、その一番語らないといけない部分のテーマがぼける。
死に際に、「俺はこれまで正義のためと思って戦ってきた。だからこれまでの戦いでは死んでも後悔はないと思ってきた。でも、なんで仲間との戦いで死なないといけないんだ。この戦いって何のためなんだ。これじゃ犬死にだよ…」とでも語らせたら、より悲壮感が出たであろうに。
今回、ヴィジョンがあまり活躍してなくて肩すかしだった。彼って人間の倫理を超越してる人工知能なわけだから、こういう人間同士のいさかいでもっと神的視点から活躍してくれるもんだと思ってた。アイアンマン側が気づいていないことに気付くとかさ…。これじゃ単なるモブ役にみえてしまう。
今回の黒幕、家族を愛する小市民ってのは良いんだけど、家族を殺された恨みが動機だったら、爆弾テロをやっちゃダメでしょ、って思った。彼は「自分なりの正義を持ってる人」として描いた方が説得力があった。人を殺すつもりはなかったけど、手違いで大惨事になった、みたいにすれば納得できたと思う。