「人格破綻ツンデレジョブズ」スティーブ・ジョブズ SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
人格破綻ツンデレジョブズ
構成がとても凝っていて、ジョブズの転機となる3つの発表会(Mac, NeXT, iMac)の発表前の舞台裏が順に出てくる。
発表会そのもののシーンは出ないところ、スクリーンの裏側の映像を印象的に示すところから、この映画はスティーブジョブズの「裏側」をテーマにしている、という意図が明確に分かるようになっている。
それだけに、ジョブズの「表の面」について、知っていることが前提になる映画。ジョブズの人生や、彼と関わる人物、アップルの歴史、コンピューターの歴史などを知らない人にとっては、ストーリーやセリフの意味が理解できないだろう。
ジョブズは、思い込みが激しい、自分の思い通りにならないと気がすまない、現実を自分の都合の良いように解釈してしまう(現実歪曲)、人を思いやることができない、人に感謝を伝えることができない、人をうまく愛することができない、そんな、人格破綻者として描かれる。
そんな、ジョブズの負の面をメインにしつつ、そんな人格破綻者である彼に、なぜ多くの才能ある人達が協力することができたのか、というところが徐々に明かされていく。
ジョブズは、素晴らしいものや人物に掛け値なしに惹かれ、熱くなれる。その、自分の「素晴らしい」と思う感性を微塵も疑わない。多くの人間は、そんなに完全に素晴らしいと思う、自分だけしか分からない感覚を信じ続けることができない。
また、ダメなものは絶対に妥協なくダメだと言って、意見を曲げないことも、彼の魅力の1つだろう。なぜなら、彼に認められた人は、彼が決してお世辞を言わないことを分かっているから。
この映画は、人格に問題のある彼が、人間的に成長していく物語でもある。そのきっかけは、常に娘から与えられている。娘との関係が、ジョブズの他人との関係に象徴されている。
最後に、ジョブズは彼の人生の中でずっと出来なかったことである、自分の不完全さや過ちを認められるようになる。
ジョブズに対しては、経営や先見性などの面で英雄像だけが一人歩きしがちなので、こういうダメで人間臭いジョブズは面白い。