「未来へつなげたい思い」サウルの息子 こまめぞうさんの映画レビュー(感想・評価)
未来へつなげたい思い
ゾンダー・コマンドという存在を今まで知らなかった。
あまりにも残酷な役目をさせるものだと思うのだが
日本でも死刑執行後の片づけを死刑囚にさせてる
(20年ほど前の本にあったがもしかすると今は違うのかもしれない)
ので、過去のナチスにだけあったことではない。
人間は穢れや人非人と思うものにはどこまでも冷酷である。
ナチス収容所に特殊任務をさせられているサウルたちは
いまは生きてはいるが
ナチスの気分次第でいつでもすぐに殺されてしまう存在だ。
常に首の皮一枚で生きている。
そんな中サウルはある少年をなんとしても
正式に埋葬して送ってやりたく
仲間からすれば狂気じみた行動をとる。
サウルは少年を息子だとは言うけれど
妻との子じゃない、とも言ってるので
血縁ではない。息子だといえば
仲間に話が早く通るから言ってるんだろうが
その執着度は本当の息子のようにも感じるほどだ。
解説などを読んでやっとそういうことかとわかったが、
ナチスは収容所で生命を奪うのみならず
信仰までも。仏教でいえば死んだあとあの世で会おうね、的な
本当に、希望とまでも言えないようなレベルの
望みさえも踏みつぶしていたのだ。
サウルはその死んだ少年にせめて死後の希望だけでも
たくしたかったのだろう。
その気持ちもわからいでもないのだが
なかなかサウルは限界状況にある中で
そのために仲間の計画もミスらせてしまうし
サウルのせいで死ぬ者もいるわけで、
観ていて正直、いやお前。。。迷惑。。。と
イラっともする。
もう自分が生残ることは考えてなかったんじゃないか。
そんな希望はないだろうなとどこかで悟っていたんじゃないか。
でなきゃこんな身勝手というか無謀なことを、
それもせめて生きてる少年まらまだしもだ、
できるか?やるだろうか?
ここまでの極限状態を経験したこともないのでわからないけれど。
しかし二度とこんな戦争を起こしてはいけないのだと
胸に突き刺さる。
敵国にあたる地の少年にも微笑むサウルは
狂気ではなく、誰よりも冷静で人間らしい。
彼はかの地へ憎しみを抱いて旅立たなかった。