「ただただアウシュビッツ酔いが凄い。」サウルの息子 lylycoさんの映画レビュー(感想・評価)
ただただアウシュビッツ酔いが凄い。
異様にピントの浅い準POV的な映像の効果だろう。確かに一見の価値はある。ただぼくには、人間の尊厳を描いた感動作には見えなかった。読解力が足りないんだろうけど、戸惑いが勝ってしまって感動どころじゃなかった。
ガス室の死体の山の中で生き残っている少年を見つけた瞬間、ゾンダーコマンドの隊員として同胞の死を大量生産してきたサウルに奇妙な執着が生まれる。確かに、なんらかの人間的な感情や意思のようなものをとり戻したように見える。ここまでは、わかる。
問題はその先だ。結局、少年はすぐに殺されて解剖に回される。解剖を命じられた医師も、サウルと同じ強制労働者だ。そんな医師のギリギリの好意を裏切って、サウルは死体を盗む。そこからのサウルの埋葬に対する執着がどうにもよくわからない。
たとえば、埋葬のために最初に探し当てた背教者の元ラビなんて、サウルに騒ぎを起されたせいで処刑されてしまう。それでもサウルはすぐに次のラビ候補を探し始める。彼は自分のことやそこにいる仲間たちのことは、もう諦めてしまっているように見える。
けれども、サウルの周囲にはまだ諦めていない人たちもいる。彼らはレジスタンスを組織して脱出を計画したり、写真や文書で密かに記録を残したりしている。サウルはそんな同胞たちの作戦行動さえ利用し、台無しにしながら<いないはずの息子>の埋葬に執着し続ける。
同胞たちの意思、希望、命すら顧みないサウルの内面をどう斟酌すればいいのか。「少年を正しく埋葬する」という一点のみに注目して、それこそがユダヤ人としての最後の希望であり、人間としてギリギリの尊厳だった…と考えて感動することはぼくにはできなかった。
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