「タイムカプセル」サウルの息子 ミカさんの映画レビュー(感想・評価)
タイムカプセル
人間の息づかいが聞こえてくるかの様に至近距離から撮影された長回しのカメラに何度も目を覆いたくなる。私は劇場にいるのか71年前の強制収容所にいるのか。
ゾンダーコマンド。
わずか数週間数ヶ月の命と引き換えに、同胞であるユダヤ人の命を処理する仕事。
人は今日殺されない為に、明日殺されるかもしれないことを承知で根拠のない「命」と引き換えに「尊厳」を捨てる。「命」は「尊厳」よりも勝る。
しかし、サウルは息子と言われる少年の遺体の埋葬に「命」の危険を冒してまでも執拗に執着します。遺体となった少年にはもう「命」はありませんが、少年はサウルにとって自分の「命」以上のものです。サウルが「命」と引き換えにしてでも守りたかったもの、それは「人間の尊厳」です。
「サウルの息子」という作品は、決してユダヤ人強制収容所だけの話ではありません。己の命と引き換えにして「人間の尊厳」や「民主主義」を勝ちとってきた名前のない数えきれない人達の物語です。つまり、サウルとは名もなき死者達の象徴なのです。
劇中ゾンダーコマンド達は、この凄惨な事実を瓶に詰め未来に託しますが、似た様な描写を「マッドマックス怒りのデスロード」でも観ることができます。地獄の様な現実を前にして、人が唯一託すことができるのが「未来」であり「種(子孫)」であると。
サウル達は「命」の危険を冒してまでも未来の種である息子達へ「人間の尊厳」が詰まったタイムカプセルを埋め、届けてくれました。そしてそのタイムカプセルは私達が未来の息子達にもまた届けなくてはいけないものなのです。数えきれない名もなきサウル達から預かったタイムカプセルは今、ハンガリーに、イスラエルに、アメリカに、日本に、全世界に生きる私達に託されています。「唯一の命」の重みと共に。
お返事受け取りました。
そうだったですか、
「あそこ」へ行ってこられたのですね。
当地を踏んだ人と初めてこうして話したので、僕はいま言葉を慎み、黙っているところです。