劇場公開日 2016年9月17日

「細部のつくりこみ、しっかりした演出」映画 聲の形 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0細部のつくりこみ、しっかりした演出

2020年7月11日
PCから投稿

私はアニメを好んで見ることがなく、せいぜい宮崎駿や新海誠を見るくらいです。
ゆえに、まずテレビでは観ませんので、観るとすれば「映画」という単位です。
京都アニメーションを覚えていたのは、これを観たからでした。

自分がゆるせない主人公石田くんの贖罪の旅=成長の行程を描いたアニメ映画でした。
彼はいじめっ子だった過去の自己嫌悪にかられていて、人の顔を見ることができません。
その心象を反映させて、クラスメイトの顔にはバツが貼ってあります。

石田くんが、気持ちをゆるした人だけバツが剥がれます。
永束が剥がれ、川井が剥がれ、真柴が剥がれ、徐々に石田くんの贖罪の旅に道連れが増えるのです。植野はいわば必要悪としてドラマを牽引します。

顔のバツは心象の具現であり、アニメであることの必然性であり、かつクライマックスへ持ち越す最大の布石でもあります。

それにプラスして、つくり込まれた魅力的なディテールがありました。
石田母のピアス引っ張って耳朶切ったときの血痕。
いつもタグ立ってる石田くんの一張羅。
とてもいいパン。
お笑い担当の永束くん=「もっかい言ってみろやー」には本気で笑いました。
好きと月と鉢飾り。
ばあちゃんの梅ジュース。
「がんばれゆずる」。
頻繁につかわれる点景のカットシーン、鯉、蝶、花、木々、養老天命反転地。
声だけの姉と人種不明な旦那。

描写がセリフのような説得力を持っていました。アニメに詳しくないゆえに不見識でしたが、監督は、かなり見せ方を知っていると思いました。129分ありますが、心象や点景の挿入で、琴線を離しません。とりわけ、それぞれが、それぞれの場所から花火を見上げるシーンは素敵でした。

そして、学園祭のまんなかで、人々のバツがいっせいに剥がれるラスト。反則的なまでにエモーショナルで、スクリーンの石田くんといっしょに、涙がでました。

亡くなられた方々のご冥福を祈ります。

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津次郎