「映画の評価は、その人の知識・経験(その時の精神状態)で大きく左右される。残念だけど、しょうがないね。」マネー・ショート 華麗なる大逆転 さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
映画の評価は、その人の知識・経験(その時の精神状態)で大きく左右される。残念だけど、しょうがないね。
冒頭でマーク・トゥエインの言葉が引用されます。
"何も知らないことが厄介なのではない。知らないことを知っていると思い込むのが厄介なのだ"
因みに、私がいつも肝に銘じているのは、パスカルの言葉です。
"無知を恐れるな、偽りの知を恐れよ"
マークも、パスカルも、本作も、同じようなことを言っています。
多分。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転(2015)』
原題 THE BIG SHORT
※実際にあったことなので、ネタバレも何もないっしょ?と思います。ネタバレ・アクセル全開です。
本作にも登場しますが、金融危機の波にざっぶーんって飲まれたことで有名な会社に当時務めてました(てか、波を作った側面もあります。いや寧ろ大波だったかも)。
でも私は、その波が足首くらいの時に退社したので、それほど大変な思いはしていません。
けど、本作を観ていて、苦笑いが止まりませんでした。
あ、コメディだけど、笑えない。
いや、笑える!
いや、笑っちゃいけない!
笑える!
どっち?ってなる(笑)
流石、アダム・マッケイ脚本・監督。
むっちゃ面白いです。
本作でブラピ演じる元銀行員のベンが「600万人が家を失い、職を失うんだ!はしゃぐな!」と怒鳴るように、本作は"ウォール街を出し抜いた"映画でも、"華麗な大逆転"の話でもありません。
じゃ、何の話か?
それはのちほど、お話するとして。
その前に、(一般常識ですが)2008年のリーマン・ショックはご存知ですよね?
なんでリーマン・ショックが起こったかも?
流石です!
では
MBS=不動産担保証券
CDO=債券担保証券
CDS=クレジット・デフォルト・スワップ
これは、ご存知でしょうか?
本作の字幕ではこんなアルファベットや見慣れぬカタカナが、さらっと出てきます。
でも一応、説明してくれるんですよ。
ライアン・ゴズリング演じるドイツ銀行のジャレッドが、本作のガイドとなって、ちょいちょいカメラ目線で言ってくれるんです。
「金融商品って難しいよね?マーゴット・ロビーが教えてくれるよ」とか。
すると、泡風呂に入ったセクシーなマーゴットが、シャンパン飲みながら注釈を入れてくれます。
マーゴットは、
" アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜"
"フォーカス"
"ウルフ・オブ・ウォールストリート"
に出てた綺麗なお姉ちゃんですよ。
他にもセレーナ・ゴメスがギャンブルしながらとか、シェフがシーフードシチューを作りながら、分かりやい例え話をしてくれます。
ありがたいです。
でも、わかんねーってレビューが多いようです。
だけど!ここを説明すると、やけに堅苦しくなって、本作のユーモアとか、エンタメ性が台無しになる気がするんですよ。
なので、ググってね。以上。
サブプライムローンがらみの金融の仕組みが、近いうちに危機に陥る!って予測した人がいるんです。
見抜いたのは、クリスチャン・ベイル演じる一点買いのトレーダー:ヘビメタ好きで片目が義眼のマイケル・バーリ。
バーリは単に予測しただけではなく、そこに捻りを入れた(逆手に取った)ビジネスを考え出したんですよ。
「じゃ、MBSの価値が下がったら保険が支払われる契約付きの金融商品を作って、俺どんどん買うっす(劇中で"空売り"、"空売り"って言われてるのがこのことです。買ってるのに、売ってる?混乱するとこですよね?)!」
で、ゴールドマン・サックスさん作って!俺、その商品買うから!
この保険契約付き金融商品は、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)です。
このCDSの価値をいち早く理解して営業したのが、ドイツ銀行のにやけ顔のジャレッド。いちいちカメラ目線です。
このジャレッドが営業に行ったのが、曲がったことが大嫌い。大手銀行なんか詐欺集団だと思っている、暴言吐きまくる投資会社経営のバウム(スティーブ・カレル)です。
他にもウォール街で成功を目論む若い子2人&この2人をサポートする元銀行員ベン(ブラピ)など、登場人物がそれぞれ個性的で、面白いです。
大企業が作り出してる詐欺まがいな流れに逆行し、いずれ訪れる未曾有の金融危機を回避する人たちの話です。
本作はバーリが予測し、それが現実になる2年間の物語です。
さて、冒頭の一文に戻ります。
"何も知らないことが厄介なのではない。知らないことを知っていると思い込むのが厄介なのだ"
家は必ず上がるんだってよ!お金なくても取り敢えず家買って売ったら、儲けられる!
低所得者に高い金利でローンを組ませて、もし払えなくなって家を手放したら、住宅バブルだのもの。
直ぐに、高く売れるもん!
などなど、情報を鵜呑みにして一方向へどどーってみんなが突進している最中、あれ?って立ち止まってよくよく調べてみた人たちが、金融危機を回避できたお話ですね。
あと、金融業界の人たちって、なんだか難しい言葉を使って煙に巻こうとするけど、あんまり分かってないお馬鹿さんが多いってこと(笑)
金融商品は複雑化しているので、行員さんでも分かんない人いるんですよ。いや、まじで。
この一連の金融商品は、実は規制当局(米連邦準備理事会)もよく分かってなかったんですよね。
日本もそうでしたけど、劇中でも「バブルの中では誰も、バブルが起こってるとは思わない」と言われます。
渦中では、人間の思考って停止するらしいですからね。
そっかー。そうやってこの人たちは、ウォール街を、大企業を出し抜いたんだ!すげーって、思わないでくださいね。それこそが、厄介な思考です。
ちょっと、立ち止まってください。
まだ、先があります。
ここからが、本作の面白いところです。
バーリさん他は勝ったんですよね?じゃ対する大手投資銀行なんかはどうでしょうか?
負けたんでしょうか?
確かに破綻した会社もあり、政府の介入で破綻を免れたところもあります。
でもそんな投資銀行のCEOが家を失っただの、現在、苦しい生活をしているって聞きます?
いいえ、聞きません。やつらは、がっぽり儲けたんですよ。
負けてるのに、勝ってる(笑)
それこそが、このサブプライムローンを発端にした金融危機の一番の問題点なんです。
万が一負けても、"(一部の)自分達だけ"は儲かる。そんな仕組みなんです。
"ウォール街の強欲さ"ですよ。
商売ってのは、そういうもんじゃないですよね-。
本作が華麗な逆転からほど遠く、寧ろラストで苦々しい思いすらするのは、多くの人が家を失い、職を失い、人生を狂わされたからだけではなく、この"強欲な仕組み"が未だに根本的には変わってないからです。
だから私達は「無知を恐れるな、偽りの知を恐れよ(何も知らないことが厄介なのではない。知らないことを知っていると思い込むのが厄介なのだ)」を肝に銘じなくてはいけない。
そんな警鐘を鳴らしている作品でした。
面白かった!
PS 徳永英明の曲が流れたり、村上春樹せんせのIQ84の一文が引用されたりしますよ。