「悪銭は 身に付くからこそ無くならない」マネー・ショート 華麗なる大逆転 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
悪銭は 身に付くからこそ無くならない
2008年に起きた世界経済の破綻を予測し、
逆手を取って巨額の金を手にした男たちを描く、
実話を元にした社会派エンターテイメント作。
経済の話に疎い自分にはハードルの高い部分が多かったけど、
それでもなんとなぁく(笑)楽しめてしまう映画でした。
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物語のキーワードは『空売り』という経済用語。
だが、経済にも数字にも弱い自分は『空売り』という
言葉を調べてみても仕組みがサッパリ分からず。
ま、とにかく、証券会社から株を借りて、株価が
下がった時にそれを売り払うと儲かるテクニックらしい。
けど、株を借りてる間はその保険金を払い続けなければ
いけないし、株価が上がってしまうと当然損になる。
その他にも複雑怪奇な経済用語がポンポン飛び出す本作。
MBS? CDS? CDO? IDLA? WTF(What the Fxxk)?
だが、サブプライムローンが危うい状況にあることを
ジェンガで例えた説明や人を食ったユーモアの数々、
なぜか実名出演してるマーゴット・ロビーや
セレーナ・ゴメスらの解説のおかげもあって、
それらの用語についてもどうにかこうにか理解でき
――ませんでしたー、あっはははは(爆)。
いやーすいません、こんなんで社会人やってて。
どういう状況なのかの理解はほとんど雰囲気(笑)。
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物語についていけたのは豪華主演陣の演技の賜物でもある。
虚ろな眼で崖っぷちまで賭け続けるクリスチャン・ベール、
不誠実な業界にブチ切れっぱなしのスティーヴ・カレル、
守銭奴な言動と髪型がイラつくライアン・ゴスリング、
辣腕だが金融ビジネスの世界に疲弊して見えるブラピ。
彼らは、『世界が経済危機に陥る事を予見して儲かった連中』。
これだけ聞くと印象はサイアクだが、この映画は彼らを、
大逆転を成し遂げたヒーローのようには描いていない。
ブラピ演じるベンが珍しく言葉を荒げる終盤のシーンや
スティーヴ・カレルが自分も不正を犯す連中と同類だ
と肩を落とすシーンなど、残るのはほろ苦い後味。
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演技や演出のおかげで楽しめたが、先に書いた通り、
劇中で語られる用語についてはワケ分かんない状態の自分。
けど逆に言えば、
こんなワケ分かんない(というか最初から煙に巻く
のを想定したかのような)システムによって
こっちの生活までもが脅かされているという不気味さ。
本作によると、2008年のこの経済破綻によって、
アメリカ国内だけで5兆ドルの年金と800万人の職と
600万人の家が消えたとか。その煽りで日本でも
大量のリストラが発生したことは記憶に新しい。
僕自身、輸出中心の製造工場勤務だが、リストラは
免れたものの多数の知人が退職されてしまったし、
地元の方でも派遣勤めの友人の多くがリストラされた。
結局さ、市井の人々の金を好き勝手使って超超超高額の
ポーカーをやられてるようなもんじゃない、これ。
なんで手前らの金儲けでこっちの生活まで振り回され
なきゃいかんのよふざけやがって、という話。
おまけに大打撃を喰らった銀行は、結局は巨額の
税金で救われて「あー、助かった~」だもんね。
路頭に迷った人々はろくに救わないクセにさ。
映画では、高額な住宅ローンを笑っちゃうような
ムチャな方法でホイホイ組まされ、挙げ句に
家を追い出される人々などの姿も描かれる。
食い物にされる馬鹿の方が悪い、と、儲けてた連中は
言うんだろうけど、なんとも情の無い話。
所詮はPC上での駆け引きなので、誰かの人生を
滅茶苦茶にしてるかもって実感が薄いのかね。それとも
自分も同じ立場だったら同じようになってしまうのかしら。
“悪銭身に付かず”って諺がホントだったら良いが、
けっきょく弱者が食い物にされる世の中ってのは
いつまで経っても変わらないと思えてしまう。
ううむ……少しは賢くならなきゃいけないのかも知れんです。
<2016.03.04鑑賞>