「有限の住人も気にしてあげて」無限の住人 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
有限の住人も気にしてあげて
三池崇史監督、木村拓哉主演。累計発行部数
750万部超の大ヒットコミックの映画化作。
原作は評価が高いそうで、全米で最も権威ある
漫画賞のひとつ、アイズナー賞の最優秀国際
作品賞というのを受賞してるんだそうな。
しかしながら監督は三池崇史。
ゴキのアレの出来が悲惨だった上にまたマンガの映画化……。
近頃の三池監督はマンガ原作の粗製乱造が多過ぎて
個人的に信用ガタ落ちなのだが、不味くない近作も
あるにはあるし、2010年の時代劇『十三人の刺客』
は稀に見る秀作と思ってもいるので、
期待して良いか悪いかサッパリな状態で鑑賞。
この監督は作品の出来にムラがあり過ぎる。
ま、それ(=ゴキ)とこれとは別ということでレビュー。
* * *
予告編の印象から『十三人の刺客』のような硬派な
時代劇は目指していないのだろうとは感じていたが、
実際に鑑賞しても、時代劇というよりは時代劇風味の
バトルアクションという感じの映画に仕上がっている。
舞台は江戸時代でも、登場人物の着物や武器は派手で奇抜。
アクション演出自体も“殺陣(たて)”と格式ばった呼び方
よりはカジュアルに“チャンバラ”と呼んだ方がしっくりくる。
(注:“殺陣”と“チャンバラ”は基本的に同義語。ただ
個人的には刀がぶつかる時の擬音が語源である後者は
より娯楽要素が強くカジュアルなものに感じる)
とにかく全編に渡ってチャンチャンバラバラが繰り広げられる
映画なのでアクションの出来が評価を大きく左右する訳だが、
その点、木村拓哉のアクションは素晴らしい。
特に二刀流での大立ち回りは豪快にして流麗。
槍やら仕込み双剣やら二又の刀やら妙チキな
形状の武器を次々繰り出しての戦闘も楽しいし、
どの武器での立ち回りもしっかりと様になっている。
木村拓哉以外でも、人気だけでなくアクションも
きちんとこなせる役者さんが良い仕事をしている。
涼しい顔で激しいアクションをこなす福士蒼太も
良いし(さすが元仮面ライダー)、戸田恵梨香は
剣戟初挑戦らしいがそれを感じさせない。
市川海老蔵や田中ミンについては、動きを“魅せる”
技能の高さは今更言及するまでもないが、本作でも
その尋常ではない眼力と声音で良い仕事してる。
(あんなに怖い顔でおにぎり食べるお爺ちゃんヤダー)
撮ってる側の見せ方や指導も巧いのだろうし、基本的に
身体能力が高い役者じゃなきゃこなせない仕事だと思います。
* * *
ということでアクション面は上出来!
と言いたい所だが、残念ながらそうは思わない。
アクション映画は緩急が肝要だ。
冒頭とクライマックスの大立ち回りは、最初の1,2分間
こそいいが、緩急無く延々と続くのでダレてくる。
合間に入るライバル達との一騎討ちも、武器やキャラの
奇抜さで変化は付けているが構成的には毎回ほぼ単調だ。
本作のアクションは、いわば猛スピードは出ても
コースが平坦なジェットコースターのようなもの。
最初こそスリリングでも、途中でそのスピードに
慣れるとだんだん飽きを感じてしまう出来。
* * *
あと、演技面でどうしても気になったのは杉咲花。
可愛らしいし、そのくせ悪党相手に啖呵を切る序盤のシーン
では「力強い声が出せる役者さんだな」と感心もしたが、
映画が進むに連れてその一本調子な演技が気になり始める。
彼女の場合、演技だけでなく役柄も気に入らない。
物語上での成長も弱いし、なによりあの少女が仇討ちを
果たす為だけに百人超の人々が死ぬ展開がなんとも嫌。
いや、冒頭の山賊どもは金の為なら人殺しもいとわない悪党
だし、逸刀流の連中も目的があって人を殺しているから
自分達が殺されても文句は言えまい。それは構わない。
だがクライマックスの敵は、田中ミン以外は、逆賊の
捕物という名目で駆り出された下級武士ばかりのはずだ。
お上からの務めを果たそうとしているだけの一般市民である。
それを思うと、ものすごく後味が悪い。彼らが
襲い掛かってくる以上は殺すしかないかもだが、
それでもものすごく後味が悪い。
中盤の、「殺した人間にも大切な人がいたはず」という
敵側の問い掛けも、後味の悪さに拍車をかける。
あの少女は最後まで、自分の業深さをさして気に
かける様子もなく主人公に人を殺させているのだから。
* * *
死にたくても死ねず無気力に生きる男が“死なない”
目的を見出だすまでの物語としては悪くないし、
木村拓哉は時代劇とは微妙に異なる映画のトーンに
うまく溶け込み、アクの強い役者陣との相性も良い。
時代劇ではなく剣戟アクションとしての
多彩なチャンバラも割と楽しめはした。
だが上述の理由で、総じて爽快感よりも疲労感を感じた次第。
いっそヒロイックに描くより業深い存在として
主人公2人を描けば良かったのに、と勿体無い気持ち。
まあまあの3.0判定で。
<2017.04.29鑑賞>