タンジェリンのレビュー・感想・評価
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リアルな人間を見つめる視線の優しさ
アメリカのインデペンデント映画シーンの新しいスター監督と言っていいだろう。ショーン・ベイカー監督の人間を見つめる視線は、人間の残酷さもみっともなさも余すとこなくさらけ出すが、同時に優しさもきちんと見逃さない。
iPhoneという最小単位のカメラを駆使して撮られた本作のメインキャラクターたちは、プロフェッショナルは俳優ではないが、彼女たちのリアリティある佇まいを引き出すのに、見慣れたスマホは大きな効果を発揮しただろう。
監督はLAに越してきて、ハリウッドの描く華やかさと現実とのギャップに驚いたという。なぜお膝元の彼女たちのような存在を無視しているのかというのが製作の動機でもあったようだが、まさにインデペンデント作家らしいスタンスだ。ベイカー監督の持ち味はその色調のセンスも素晴らしいが、それ以上に人間のリアルを見つめる、厳しさも優しさも全てを逃さない視線だ。
混沌とした物語世界そのものの描写に軸足を置いている
どうしようもない多様性
ハリウッドやシリコンバレーといった華々しいイメージによって過度に虚構化されたロサンゼルスという空間を、今一度再構築する。それゆえ本作ではiPhoneというチープな撮影機材が動員される。遠近を失った映像の中に浮かび上がるロサンゼルスの街並みは、ハーモニー・コリン『ガンモ』に映し出された田舎町のごとく鬱屈としていて行き場がない。
欠けたアスファルトの舗道を右往左往する人々の中に煌めくハリウッドスターやギラついたテクノリバタリアンの姿はない。代わりに、身なりの汚い中年男性や化粧の濃いトランスジェンダーや出自不明のマイノリティ民族らが我が物顔で街を闊歩する。
混沌は映像のみならず音声の領域にまで波及している。主人公たちが場所移動するたびに流れ出す場違いなEDMやヒップホップが爆音もまた、ロサンゼルスという空間のどうしようもない多様性を高らかに謳い上げる。ここでいう多様性とは、理知的な社会運動の成果ではなく、諦めと無秩序の結果に他ならない。
アナーキーな愚か者たちは街のほうぼうで各々の痴態を演じながら、最終的にドーナツ屋という特異点に結集する。ドーナツ屋というのがまたいい。◯◯屋の中で最もバカそうだから。
愚か者たちのカーニバルはドーナツ屋の店内において最高潮を迎え、そして爆散する。ここで終幕すれば単なる露悪趣味の映画だが、本作は最後に微かな再生を予示する。黒人のトランスジェンダー女性にとって最も重要といえるカツラを小便で汚されてしまった親友のために自分のカツラを差し出す、というのが本作のラストショットになる。
コインランドリー、性的マイノリティ、仲直りというエレメントから我々は『マイ・ビューティフル・ランドレット』を否応なく想起するだろう。無数の洗濯機は彼ら/彼女らの間に蓄積した疑念や憎悪を洗い流すものであると同時に、同じところをグルグルと回り続け永遠にどこへも辿り着けないことのメタファーとして機能する。
少し粗いタッチと、クライマックスに向けて収斂していく物語、の組み合わせが無二の魅力を放っている一作
第97回アカデミー賞で作品賞、監督賞など6部門を受賞した『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー監督が2015年に発表したこの作品。全編iPhoneで撮影した映画としても話題となり、映画の新時代到来を強く印象付けました。
iPhone独自の色味に加えて、監督の色彩感覚を強く反映した、黄色の印象が強い映像は、ロサンゼルスの、荒廃が目立つ一角の雰囲気を生々しく伝えています。加えて手持ち撮影を多用した、やや粗いカメラワークによって、ドキュメンタリー作品を見ているような雰囲気が強まっています。
このあたりにもインディペンデント映画作家としてのベイカー監督の特色がよく現れていました。制作体制もインディペンデント性が強く、ベイカー監督は監督だけでなく、撮影も編集もこなしています。
監督自らが携えたカメラがとらえる人間模様は、主人公である二人(キタナ・キキ・ロドリゲスとマイヤ・テイラー)をはじめとして癖のある人ぞろいのため、別々に展開する物語がどう収斂していくのか、目の離せない緊張感があります。
しかも彼らの、人間としてあまり褒められたもんじゃないところまでも率直に描写していることがむしろ、視点としての公平性を強く感じさせます。どんな立場の人でも本作を鑑賞して、様々な観点から評価できる余地を与えているあたり、一見観る人を選ぶ作品のようで、実はものすごく受け口の広い映画と言えます。
そして実際のクライマックスの、「こう来る……?」「まさかこの場面で……?」という落差は最高。
『ANORA アノーラ』から見て約10年前の作品であるにも関わらず、小咄と言っても良いような一つ一つのエピソードの語り方、そしてそれらを束ねていく過程のドライブ感など、すでにストーリーテラーとしてのベイカー監督の手腕は見事としか言いようのない領域に達していました!
FUC◯IN Calm Down!
言いたい事は分かる気がする。登場するキャラクターの中に一人もアングロ・サクソン系の物理的にも精神的にも男が登場していない事だと思う。白人の男性が出てくるが、チェロキーの血を引くし、運転手はアルメニア移民。しかも、ストレートではない。
さて、多様性を言いたいのだとすぐに分かるが、なんか助長していないのか?
Calm Down!アドレナリンが出過ぎのわりにはオフビート。でもね。
同じ娼婦で、物理的なストレートな女性に対して、自分のGの恋人を取られたと怒っている性的マイノリティの物理的な男性の話なんでしょ。なんか複雑。
そもそも、売春回春行為が矛盾した社会と言えると思うが。
当事者でないと理解出来ない。つまり、それを実際の生業としている者にしか分からない。
だけら、こう言ったストーリーをコメディーの如く製作している道義的な責任は無いのだろうか?
そして、挙げ句は何事もなかった如く話はクリスマスイブの話として終わる。
現実は薬、銃、裏社会、人種ととても複雑に入り組んでいる。この程度の映画で自由な表現と感動していてよいのだろうか?
トランスジェンダーの物理的な男性がメゾソプラノでバラードを歌う場面があるが、売春回春をせぬともこう言った仕事で職を持てる文化的な社会が必要だと思う。
この映画では、なんと金を払って歌わせて貰っていると台詞でわかる。
つまり、ストーリー全部がアメリカ社会に対するアンチだとは思うが、作り話の感が否めないし、本当に泣いている少女が哀れだ。(しかし、この幼子がこの映画の主人公何じゃないかなぁ?)
アルメニア人はキリスト教なので、クリスマスは認知出来る。アゼルバイジャンがイスラム教なので、紛争になっている。
映画館はポップコーンで、ファーストフードがドーナッって、ダサい文化だよね。
ロスアンゼルスには一度だけ行った事があるが、老人の僕には生活が出来ないと思った。それは車が無いと生活出来ないと言う事で、こう言った人達がいて、怖いと言った理由では無い。もっとも、そういった所へ行ってないのかもしれないが。まぁ、アメリカの西海岸へは行く事が無いと思うのでもう良いが、つくづく、老人の方達の孤独が心配になる。
そもそも、コインランドリーってなんの為にあるんだろう?
その割にコンビニが少ない。もっとも、日本は多すぎる。
日本と共通する所は、どちらも地震が多い。これからは防災を考えねばね。まぁ、僕はあと10年も生かせて貰えないから良いけど。
【”ムショから出たばかりのトランスジェンダーが、恋人が浮気していた事を知って、大激怒!”下ネタ満載の狂乱のクリスマス・イブをコミカルに描く作品。ラスト、親友と和解するシーンは少し沁みます。】
ー ショーン・ベイカー監督を知ったのは、今作後の「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」であった。この作品の貧しき全身タトゥーだらけの母親ヘイリーも、今作のシンディとアレクサンドラを演じたトランスジェンダーの二人と同様に、ショーン・ベイカー監督が、素人の方を抜擢していたが、素晴らしい作品であった。
今作でも、トランスジェンダーの二人を映すショーン・ベイカー監督の視点は”彼女”達の生き方を肯定しており、優しいのである。-
■クリスマスイブのロサンゼルス。
28日間の服役を終えて出所したばかりの娼婦・シンディは、恋人の浮気相手を探そうと街へ飛び出す。
同業で歌手を夢見るアレクサンドラはそんなシンディをなだめながらも、自分のライブのことで頭がいっぱい。
そして、狂騒の一日が始まるのである。
◆感想<Caution! 内容に触れています。>
・シンディとアレクサンドラの姿と並行して、アルメニア人のゲイのタクシードライバー、ラズミックの姿も可笑しい。
ー クリスマスイヴなのに、家族を置いて夜の街に出るラズミック。彼は洗車する中、○○してくれたシンディを探すのである。
・シンディは入所中に”彼”であるチェスターの浮気を親友アレクサンドラから知り、浮気相手のダイナを探しまくるのである。
・そして、クスリ売りのチェスターの居場所であるドーナツ店に何故か集合したシンディとアレクサンドラ、そしてシンディが連れて来たダイナとチェスター。
更に、ラズミックと彼の義母が入り混じってハチャメチャである。
<騒動が終わり、シンディとアレクサンドラはしょんぼり歩いているが、シンディはイキナリ小便を掛けられる。
そんな、シンディをアレクサンドラはコインランドリーに連れて行き、服を洗ってあげ、自分のウイッグも貸してあげるのである。
今作は、トランスジェンダーの二人を映すショーン・ベイカー監督の視点が優しき、コミカル作なのである。>
クセあり、ファン限定
iPhone5sに乾杯🍾
文化を作るのは
人間味溢れるクリスマス
低予算でも面白い映画は作れる
黒人のゲイの売春婦達と移民のタクシードライバーのドタバタな半日。
登場人物の中でほぼ唯一の白人売春婦を、パンプスカチカチ言わせながら町中引きずり回す様子が可笑しい。
クラブで歌う歌手志望の主人公が、実はお金を払って歌わせてもらってることを話すくだりも笑える。
かなりの低予算映画だけど、スピード感があって面白かった。
な?な?何だこのワチャワチャ感は^^; 大体、クリスマスなのに浮気...
キュンキュンした。(*´꒳`*)。
LGBT映画はどうしても星を多くしたい
ショーンベイカー
ロサンゼルス、モータリゼーションの街。通り沿いには車で入れるドーナツ屋だとか、洗車屋だとか、コインランドリーだとか、ビッチだとかピンプだとか。
そんな街を颯爽とあるくシンディレラとアレクサンドラ、嫌な目にあっても、持ち前の負けん気と明るさと豊かな経験値でやり過ごす。悪びれずに、後ろめたさもなしに、明るくトイレで一服キメてまた歩きで街に出て行く。そんな彼女達の横を、高級車とバスとゲロまみれのタクシーが通り過ぎていく。車を持たない彼女達は今日も街に立ち尽くして、置き去りにされている。家族なんて何処にいる?友達なんて何処にいる?オバマ政権下にiphoneにアナモレンズくっ付けて有色のトランスジェンダーと移民を、なんてのヤボな話はナシ。なんだかサウダージとか、国道20号線を思い出した。ゴリゴリな音楽が館内に流れてて、イメージフォーラムってこういう趣味なのかしらとか思ってたら、どうやらサントラらしい。売ってたのかしら、かなり良い音
写真が焼けたような映像
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