「ヨーロッパではオカルト流行?」君はひとりじゃない 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
ヨーロッパではオカルト流行?
拒食症とスピリチュアルを扱ったポーランドの奇妙な映画である。
死体を見慣れて何も感じない検死官の父、拒食症の娘、霊的能力を使用するセラピスト、この三人を中心に物語は進んで行く。
やはり今年『パーソナル・ショッパー』という主人公が霊的能力の持ち主という映画があったが、テロが頻発するヨーロッパではキリスト教に根ざした精神世界の無力感の代替として霊的なものが流行しているのだろうか?
ポーランドでテロはほとんど起きていないと思うが、監督のインタビューを読むと、共産主義から脱却後、経済格差が増大し、不安定な社会で教会の権威は失墜し、目的なく生きる人々が増えているらしい。
前述した『パーソナル・ショッパー』もカンヌ映画祭で監督賞を受賞したが、この作品も第65回ベルリン映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞している。
筆者から見ると両作品ともにオカルト的だなと思える場面が時折あるのだが、ヨーロッパではキリスト教に替わって台頭しているのだろうか?
あの世の人間がこの世の人間を導くような映画は日本にも腐るほどあるのだが、日本はもう少しさわやか路線だ。
しかし両作品ではホラー映画を観ているような感覚になる時がある。淡々と描かれるからそう感じるのだろうか?
また日本のこの手の映画がカンヌやベルリンで絶賛されることはないんだろうな、というのも両作品を観ているとよくわかる。
日本はどこまでも霊が人に寄り添ってくるが、両作品ではほとんど寄り添って来ない。何か示唆を与える、もしくは与えるように見えるだけである。
そこには欧米の個人主義と日本の集団で協調を重んじる感覚の違いがあるのかもしれないが、とにかく違う。その分不気味に感じてしまう。
またこの映画は軋んだ音をたてて蛇口から流れる水道水や雨などとにかく水がよく描かれる。また全体的に色調も暗い。
水道水の音や雨音に限らず、ヘリコプターの音など外界の音が効果的に使われている。
最後の場面での主要登場人物三人がテーブルを囲むところなど会話以外無音のシーンがあるが、ヘリコプターの音が聞こえてきたりする。
マウゴシュカ・シュモフスカという女性監督だが、カメラ映りの良くない普通の人々の日常を描きたかったという。
音においても日常に強くこだわったのかもしれない。
戦前日本がシベリア残留孤児を救出して以来、ポーランドは親日的な国だが、日本はあまりポーランドを知らないように思える。
かくいう筆者もポーランドの映画監督はアンジェイ・ワイダしか知らない。
しかし、この作品で光の当たらない所で生きるポーランド人の現状を垣間みたように思える。
この映画で霊的能力の持つセラピストを演じるマヤ・オシュタシェフスカは40代半ばの女優だが、ポーランドでも日本と同じように40歳を過ぎると重要な役はもらえなくなるらしい。
同年代の監督がわざわざこの役を当て書きして彼女を起用したようだ。
また、このオシュタシェフスカはワイダ監督作品の『カティンの森』の主役も演じていたが、その映画から数年経過し、髪型もショートヘアになり、眼鏡をかけるとまるで別人である。
作品中若い男女が濃厚にいちゃつき、それをオシュタシェフスカが影からうかがうシーンがあり、筆者はそのシーンを唐突に感じたのだが、前述したような映画界での女優起用の現状に対する監督の不満を現したと見ることも可能である。
どんなに暗い生活でも人はそこに慣れ、視点を変えることで幸せを見いだすことは可能だ。
日本人も戦前までは本来そういった死生観を当たり前のように持って生きていたように思えるが、今あらためてその重要さを教えてくれる作品である。