劇場公開日 2016年4月22日

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「重厚。荘厳。圧巻。」レヴェナント 蘇えりし者 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0重厚。荘厳。圧巻。

2016年5月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的

こんな長い映画、単なる執念深い復讐鬼の話だったらどうしよう?と思いながら見始めたのだが、あっという間に終わってしまった。
とにかく、映像が素晴らしい。ため息が出っぱなしだった。そこで展開される(されてきた)、自己理論を振りかざし開拓に手を広げる文明人と、ネイティブアメリカンの妥協と衝突。ネイティブアメリカンを野蛮人とさげすむ文明人こそ、自然や動物に対して野蛮な行動をしている矛盾。そのいい例が、バッファローの頭骸骨で作られた塚だ。それを見上げ、沈黙しているグラスは何を思うのか?、そう観ているだけで、メッセージ性の強い映画だと思えた。
そんな、双方の狭間にたつグラスの葛藤が、個人をこえて人種や文化の軋轢を表現しているのが心に響いてきた。歴史好きの僕にしてみれば、まるで、奥州藤原三代の祖・藤原経清の葛藤を見ているような気がしてならなかった。
時たまグラスの妻の幻影が現れるのがまた、心揺すぶられる。「いかに風は吹こうと、木は倒れない」というグラスの妻の言葉に、どれだけグラスは勇気づけられたことだろう。グラスは、強すぎるほどの執着心で復讐を決意し続けるのだが、けして無謀ではなく、冷静で深慮ある判断力、行動力に、観客はみな、ぐいぐいと引っ張られ続けていく。

ラスト、復讐は神に委ねられた。
アリカラ族の酋長の娘を助けたグラスを、彼らは殺すことはなかった。しかし、すれ違い様に礼を言うでもなく、娘も微笑むでもなく。はっとした。酋長の態度に「俺は娘を取り戻したが、お前はどうなんだ?」と問いただしているように思えたからだ。

全体に、重厚な音楽が映像美をさらに高尚なものに盛り立てていた。
特にエンドロールでの、息づかいのようなチェロの旋律、心臓の鼓動のようなピアノの調べ、感情の抑揚のようなバイオリンの奏で。もう、グラスの執念がこっちに乗り移ってきたかのように、息を荒くして真っ暗な画面に見入ってしまった。

栗太郎