「2000年代のシックスセンス。平成のシャイニング。とにかく、それぐらいの映画。」ザ・ギフト 真中合歓さんの映画レビュー(感想・評価)
2000年代のシックスセンス。平成のシャイニング。とにかく、それぐらいの映画。
適当なホラー映画はないかと漁っていて見つけた本作。
メチャクチャ面白かった。
今まで観たホラー映画の中でも最高だったかもしれない(ややサスペンス寄りだが)。
紛うことなきAAA級の作品であったことを、まずは報告しておきたい。
さて、ネタばれありなのでズカズカ切り込んでいこうと思う。本作は”不気味なゴード”こと監督兼のゴードが、カリフォルニアに越してきた円満夫婦の元に襲いかかる!という展開なのは前半まで。後半からは因縁の過去と向き合う、リアルな復讐の物語へと変貌する。
まず、何よりも言及したいのが監督兼ゴード役を演じられたジョエル・エドガートンの存在感。もう、この終始今か今かとゴードの爆発を期待していた身としては、その決して弱そうには見えない(日本人基準で見ると普通にイカツイ笑)風貌と、不気味さを感じさせるも、どこか優しさも垣間見えるような瞳に魅了されたハズだ。
出てくるだけで場面に緊張感を持たせるその存在感は、この映画の骨組みと言っても過言ではないだろう。
その他の俳優陣も素晴らしい。ジェイソン・ベイトマンのサイモンというキャラ自体には前後半に渡って大きな変化は無いにも関わらず、そのまともに見えた振る舞いへの見方がガラッと変わってしまう。
レベッカ・ホールもどこか情緒不安定で、この物語の穴や弱点になりそうな不安感を誘う演技だった。それでも決してヒステリーにはなり過ぎず、最終的にはサイモンへと全ての矛先が向かっているような感じで、絶妙なポジション。
当初には妻と家庭を守るという気持ちが有ったサイモンからゴードへの当たりが、結局は自分の醜い過去を掘り起こす結果に終わったような構図で、面白い。それに何より、ロビンは終始蚊帳の外な構図も、この後の考察に繋がってくるだろう。
さてさて、ようやくお待ちかねの考察タイムに入りたいと思う。本作は不気味なゴードの襲来に四苦八苦する単調なホラーではなく、むしろ後半からはサイモンが悪役に変貌する復讐の物語、そして”罪”の物語でもある。
ここで整理しておきたいのが、最初に会ったのは偶然なのか?妻ロビンも復讐対象なのか?ということ。
これらに関しては各感想サイトでも述べられているように、最初に出会ったのは偶然で、当初は本当に仲直りの気が有ったであろうこと。そして、サイモンの妻であるロビンは全くもって復讐対象ではないどころか、ゴードにとっては純粋なる施しの対象であったことは間違いないだろう。因みにこの構図を基準とすれば、最後にして最大の謎へのヒントにも繋がってくる。
そもそもゴードとサイモンはどういう関係なの?という点をおさらいしよう。これは劇中でも述べられていた通り、ゴードとサイモンは同じ学校の同級生で、ゴードはサイモンの”嘘”を八端とするイジメによって人生を破壊された人間だ。
もう、これだけでサイモンに対する同情の余地など無いだろう(笑)。
つまり、”ゴードとサイモンだけが”当初からその事が頭の隅に有る状態で過ごしていたことになる。途中で加わる勝ち組夫婦×3や隣人は何の関係も無かったので、深読みする人ほど無駄な苦労をしたかも?
そうそう、本作はこのようなミスリードが凄かった!当初は誰もが抱くであろうゴードという不気味な男が襲いかかってくるストーリー。その期待に答えるかのように家具屋での不気味な登場をはじめ、その後も期待通りに家に侵入されたり鯉が死んだり実は俺ん家じゃないよトリックを仕掛けたり、
『ハハァ~ンやっぱりこいつはヤバいのね~』と、上手く鑑賞者は騙されていたことだろう。
ここで勝手に寸止めと命名させて貰うが、この寸止め描写が凄かった。一回目は家に誘われた時。不自然に席を離れるゴードに鑑賞者は『なんか仲間でも連れてくるんじゃないか?』『実は仕事人(意味深)やってます★』なんて告白からのゴードの変貌を期待していたハズだ。個人的にはワルキューレの騎行が流れるシーンが超絶お気に入り(笑)。監督はほくそ笑みながら台本を書いていただろうな(笑)。
そして、極めつけはサイモンの謝罪()シーン。遂に一対一で向かい合うゴードとサイモンに場面の緊張感はMAX。鑑賞者の止めろという気持ちを振り払うかのように、謝罪を受け入れろパンチ&キックをかましまくるサイモン。鑑賞者はとうとうブチ切れるゴードを期待したハズ。
しかし!そこでもゴードは終始冷静なままなのだ!これでいよいよこの物語が分からなくなってくる。(結局、寸止めされずに発射されたのは犬の件とオチぐらいだったような・・)
一体ゴードは何を考えているのか?この物語はどういう方向性に向かっていくのか?それは唐突に訪れた・・・・。
なんと、、、、
ギフト(赤ちゃん)を仕込んでやったぜえええええざまあああああ!!!!!
という、分かった瞬間に軽く頭がスパークするようなオチに(笑)。
なるほど!
”ギフト”だから最後に最高の”ギフト”送ってやりましたよってことね(ぶははっ)みたいな、久しぶりに脳みそが喜ぶ映画を観れちゃったよ~。
単純に私の勘が悪かったせいで、最後の最後でなるほどおおお!という感覚を味わえたが、思えば不自然に妊娠ネタや赤ちゃんネタが多かった。ガッツリと出産シーンをやったのもちょっと意味不明だったし、イジメのネタとかで頭が一杯になってると気づかないね、これ(笑)。
で、これで終わらないんだな。こちらはメタ的な視点にもなってくるが、実は”ゴードの子ども”かどうかは分からないし、そもそもレイプされたのかどうかも”分からない”んです。
これがミソなんですね~。
つまり、ゴード自身もゲイで犯されたという全くの”嘘”によって苦しんだ人間であり、だからこそサイモンに対しても『俺の子どもかもw』という嘘で苦しませる。そしてその真実を追求しようとすれば、それを知らない妻ロビンをも傷つけてしまう。
最高の構図なんですね~これがw(今更ですがゴード応援派です)
メタ的にはギフトで掛かっていて、ならそれ以前のギフトの意味は?となるとこちらは全くもって善意による普通のギフトだった可能性が高い。再会して互いに大人になった状態で優しいゴードが最後のチャンスを与えても、傲慢でイジメっ子体質のサイモンは変わっていなかった。
だから最後の最後で、”悪意満点の復讐のギフト”を送ったわけです。
この物語のミソって、ゴードは最初から復讐心MAXだったわけじゃないってところだと思うんです。それでもゴードが始めから不気味で少し常識外れなのは、ある意味イジメられっ子体質なのだという描写とも受け取れる。
サイモンのイジメだけじゃなく、ゴードにも人間性的な問題があるのだという提起にも見えるのだ。しかし、これはイジメによって変化してしまった可能性も有るので、真相は闇の中。
そして!肝心の”ゴードは仕込んだのか?”という点なのだが、一回の交わりでどうこうみたいな論はこの際排除するとして、私は無い票に投じたいと思う。
そもそもゴードの匂わせは嘘であるという構図でないと、サイモンの嘘によって酷い目に遭ったゴードによる痛快な復讐劇が成立しないのと、何よりロビンは本作で悪いことを何もしていないので笑、ちょっと構図的に?が付いてしまう。
むしろ、ロビンは本作中で唯一ゴードに対して優しく接し、出来るだけゴードの肩も持とうとする女神のような存在です。
それでも、犬や鯉の件と偽の家に誘った件などを鑑みると、一概にそうとは言い切れないのも事実。ゴード自身も先天的後天的はどうあれ、少し変わった人間なので(盗聴器を仕掛けまくってる時点で…)、本当に仕込んでいてもおかしくはないという思考に至らせてしまう。
そんなゴードの存在感と、ジョエル・エドガートンさんの演技がまたしても最高ですね(基本的にどれを切り取ってもエドガートンさんの演技と監督力を褒めることになってしまう笑)。
ここで、どこの感想サイトにも書かれていなかった私なりの解釈を述べてみたいと思います。ずばり、本作には”人間の根底は変われない”という裏メッセージがあるのではないかと。
過去に言及されているのがゴードとサイモンだけにはなりますが、ゴードも、サイモンも、少なくとも高校時代から変わっていないのです。サイモンはゴードを壊した時からずっと変わらずの嘘つきで、今でも昇進の為に平気で嘘を付く真性。そしてとうとう、本作中の終盤で仕事を失ってしまいます。
ゴードに関しては人生を壊されて時間が止まっているとでも言いましょうか。それでも、サイモン相手に暴力を振るわれても特にその場ではやり返すことも出来ず、それまでもサイモンの全く反省の無い素振りに表向きは気弱に振る舞うしか無かった。
サイモンもずっとクソ野郎ですが、ゴードも結局仕込んでいないかもしれないギリギリのラインで(構図としては最高なんですが)の復讐しか、できていないのです。
ここが何ともゴードの弱さと言いますか優しさと言いますか、そんな部分が垣間見えて良い意味でスカっとに振り切れない。モヤモヤとした悲しい気持ちにさせてくれるのです・・・・。
ロビンについても少しだけ薬物(精神安定剤的な方で)漬けだった過去が言及されるので、それから完全には抜け出せてはいないことが分かります。そしてこれは深読みのし過ぎかもしれませんが、もし(サイモンとの)不妊という過去からも抜け出せていないメタ的な構図が有ったとしたら・・・というのは考えすぎか。
いやあ~最高の映画でしたね。色々な意味で。ジョエル・エドガートンの初監督作品ということですが、普通に私のベストホラー映画取っちゃいました。