「満たされない日々と暴力」ディストラクション・ベイビーズ にゃさんの映画レビュー(感想・評価)
満たされない日々と暴力
一言で言って仕舞えば、暴力。
見終わった瞬間は、ストーリー性も薄くただただ痛々しい作品で、何を見せられていたんだろう感が強かった。
ただ若者が持つ「毎日の漠然とした不満」「社会に対する抵抗」のようなものが、痛々しく描かれていたように思う。
序盤から一言も発さず、ただすれ違う人に喧嘩を仕掛けていく主人公泰良の様子は、狂気じみている。
自分がボロボロになろうとも何度でも喧嘩をふっかけにいく。暴力という形でしか漠然とした不満との付き合い方が分からなかったのだろう。
「楽しければいいでしょ」
その一言で、喧嘩をふっかけ暴走を続ける。
他のことには全く目もくれず暴力にしか興味を示さない。明らかにやりすぎなその姿は、ただのサイコパス。
やられまくりなその喧嘩がそんなに楽しいのか。
ただあまりに喧嘩が日常になり過ぎて取り返しのつかないレベルまで壊れてしまったのだろう。
そして主人公にくっついて回る高校生の裕也。
日々に不満を感じていながらも友人と普通に生きてきたちょっと不良な高校生。
自分の衝動に正直に生きる泰良と出会い、憧れを抱き、何か面白い事をしようと行動を共にする。
裕也自身は自ら暴力を奮うような人ではなかったものの泰良の喧嘩慣れしている姿に自分まで強いと錯覚。
男しか殴らなかった泰良とは違い、女にも容赦なく暴力を奮う。というか女にしか奮えなかったのだろう。
警察に捕まることが怖いというように、危ない行動をしていながらも社会の枠からはみ出ることが出来ない様子に、人間らしさを感じた。
そして万引き常習犯のキャバクラ嬢の那奈。
2人の奪った車に乗っていたことから拘束されてしまい共に行動することに。
可哀想な役柄ではあるものの、彼女も最後には可哀想で終わらせないような強く汚い女でもあった。
彼女もまた、汚い部分での人間らしさが強く感じられた。
この痛々しく救われない作品の何がすごいかと言うと、演じた役者さんである。登場人物を嫌いになるくらい、役になりきっている姿は本当に凄かった。
ただ暴力の痛々しい映画という印象だけではなくて
作品を通して
どう生きていたいかなどと大それたことを考えるには至らないものの
自分の中にもある満たされない毎日について思考が及ぶくらいには感じるものもあった。