ディストラクション・ベイビーズ : 映画評論・批評
2016年5月17日更新
2016年5月21日よりテアトル新宿ほかにてロードショー
柳楽優弥、覚醒。不穏さをむき出しにしながらも観客を選ばない、監督の最高傑作
すでに、オンエア中のドラマ「ゆとりですがなにか」に出演中の彼が、「おっぱい」というポップなワードやコミカルな芝居を通して、お茶の間に向けてただならぬノイズを鳴らしていることに感づいている人は少なくないだろう。そのタイミングで公開される主演作「ディストラクション・ベイビーズ」で柳楽が演じる泰良は、一言で言えばアウトロー、いや、モンスターだ。
舞台は愛媛県松山市。前半は、18歳の泰良がヤクザだろうが誰かれ構わずケンカを売り、ストリートファイトに明け暮れる日々が描かれる。世間のルールは通じず、どんなにダメージを与えてもニヤニヤと笑い、ゆらゆらと立ち上がり、何度でも襲い掛かっていく泰良は、まるでホラー映画の殺人クリーチャーやゾンビに匹敵するモンスター。標的をロックオンして不自然なスピードで距離を詰めていく姿は、2015年の傑作ホラー映画「イット・フォローズ」の「イット」を彷彿とさせる不気味さ。特殊メイクもせずCGも使っていないのに、人でない者を体現する柳楽優弥は、モンスター級の俳優として覚醒したのだ。
モンスターが何を見て何を考えているのかは、誰にもわかるはずがない。だからこの映画には、一度も泰良の視点からのショットはない。そして、カットを割らずに泰良のケンカを遠巻きに撮り続ける映像と、泰良の「楽しければええけん」という台詞に、泰良のケンカを野次馬として楽しんでいたことに気付かされ、見ている側は居心地が悪くなる。
真利子哲也監督は、「イエローキッド」や「NINIFUNI」でその才能に熱い視線が注がれていたからこそ、柳楽をはじめ、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、三浦誠己、でんでんといった強力な布陣のキャスティングが成功した。彼らのメジャー感と演技力を借りながら、過去作がはらむ不穏さや先鋭性をさらにむき出しにした本作は、いい意味でもっとも見やすく、観客を選ばない。真利子監督のキャリア最高傑作であると同時に、日本映画の現在地点を示す。
ちなみに後半は、泰良と、その強さに目をつけた18歳の高校生・裕也(菅田)との暴走が描かれる。モンスターの威を借る裕也の小者&クズっぷりが、史上稀に見る仕上がりだということも付け加えておきたい。
(須永貴子)