僕だけがいない街 : インタビュー
藤原竜也&有村架純に共通する“余白”という役へのアプローチ
全国3000店の書店員が選ぶ昨年の「コレ読んで漫画RANKING」で1位に輝いた「僕だけがいない街」が、藤原竜也と有村架純の初共演で映画化された。時間が巻き戻る「リバイバル」という現象に巻き込まれ無実の罪を着せられた主人公と、その無実を信じ背中を押すヒロイン。撮影を通じてそれぞれのキャラクターを構築し、刺激し合ったことによって、いまだ連載中の人気原作がオリジナリティあふれる新感覚のミステリーに昇華した。(取材・文/鈴木元、写真/江藤海彦)
藤原はここ数年、映画出演に積極的だ。しかも、「MONSTERZ モンスターズ」、「るろうに剣心 京都大火編」「るろうに剣心 伝説の最期編」2作、「ST 赤と白の捜査ファイル」など異能の役どころが印象深い。「僕だけがいない街」で演じた悟も、リバイバルによってある節目の時点まで時間をさかのぼる現象に巻き込まれる。
「食事をしている時にそろそろ映画の話をとなったので、ちょっと原作ものが続いているから次はないでしょうって言ったら、『一応、原作で』って。まあまあ、じゃあ人を殺すとか操るとか、そういう能力はないよな。そうしたら『若干の能力があります』と。そういうところから始まりました(笑)」
出演オファーの経緯を冗談めかしながら振り返るが、有村の存在も決め手のひとつになったようだ。悟はリバイバルに悩み他人とは積極的に接しないが、その心を開かせようとするのが有村扮する愛梨。撮影現場でも、背中を押してもらったと感謝を惜しまない。
「彼女がそっと手を差し伸べてくれて突っ走っていくわけだから、僕が引っ張られたようで得した感じ。架純ちゃんの現場での居方がすごくナチュラルだったので、僕の役としては普通にそこにいればいいという解釈でやっていました」
一方の有村は、愛梨のバックボーンを思い描きながら、平川雄一朗監督と綿密に意見を重ねながらの演技。その際、いかに自然な形で悟に寄り添えるかを常に意識していたという。
「悟にどれだけ好奇心を持てるかが絶対に大事だなと思ったので、悟にとにかく興味を持つということをすごく大切にしていました。愛梨は人の心にすっと入り込める女の子で、そうしようとしちゃうとただのうっとうしい子になってしまうから、微妙なさじ加減が難しい役。だから監督とは常々、このシーンはどうしましょうかと話し合ってやっていました」
そう。2人とも役へのアプローチにある程度の“余白”を持たせ、撮影現場の空気感、互いの呼吸などで役を深めていった。クランクインから数日は台風の影響で“待ち時間”が多くとれたこともプラスに転じたようだ。
有村「監督が、愛梨をどういう女の子にすれば見てくださる皆さんの中に残ってくれるかということをすごく考えてくださって、一緒に現場でつくり上げた感覚です。監督からヒントをもらったり、動きを付け足してもらってでき上がった感じですね」
藤原「僕は割とスロースターターなところがあるので、現場に入って監督と架純ちゃんとけっこう話して、こんな感じでいこうとか、ゆっくり撮っていきましょうというような、自然な流れでやっていきましたね」
悟は母親殺害の容疑で警察に追い詰められた瞬間、29歳の意識のまま連続誘拐殺人事件が起きた10歳の頃にリバイバルする。藤原の少年期はオーディションで抜てきされた中川翼、被害者となる同級生の雛月は人気子役の鈴木梨央が演じた。現在と過去の二段構造において悟の運命を左右する重要なポイント。特に中川は演技初経験だったが、藤原に不安はなかったそうで、有村ともども完成した作品の感想をうれしそうに話した。
藤原「僕らが撮影している時に、子どもたちは涙を流し汗だくになりながら監督の演技指導を受けていたんです。だから早く見てみたいという期待の方が大きかったですね。子どもたちが主役と言ってもいいくらい、本当に素晴らしい表現をしていて、温かみのある作品に仕上がったんじゃないかと。非常に頼もしかったです」
有村「子どもたちがどういう空気感でやっているのかすごく楽しみで、実際に見た時は何とも言えない気持ちになるというか、フワッと包み込んでくれるような感覚にさせてくれました。本当にきれいな映画だなって思いました」
藤原が時折おどけると、有村が笑いながらやんわりとツッコミを入れる光景もあり、実に親密な関係性がうかがえる。言葉にするのは難しいだろうが、この共演が2人に大きな糧をもたらしたのは間違いないようだ。
藤原「意識なく得たものは大きかったと思うし、僕にとって何が大事かといったら出会い。それが、この仕事をやり続けている理由だと思うんですね。出会いが次に進めさせてくれる、財産になるというか影響される部分はあると思います」
有村「それはすごくあると思います。またこの方と仕事をしたい、だからまた共演できるように頑張ろうとか、この監督の作品に出てみたいというのはありますね」
藤原は出自である舞台への情熱はそのままに、映画への意欲もおう盛。映画界に引き込んだのは2000年「バトル・ロワイアル」の故深作欣二監督で、ブルーリボン賞の新人賞を受賞した。今年の命日(1月12日)の前にも、あらためて当時のメイキングを見直したという。
「日本映画のいい時代の監督に教育してもらったという思いはあります。だから難しいけれど、演劇と映画、うまくバランスが取れればいいなと思いながらやらせてもらっています」
その15年後、有村は「ストロボ・エッジ」「ビリギャル」で同賞主演女優賞に輝いた。これほどのペースでの上昇気流は想像できなかったが、おごることなく地に足を着けて前を見据えている。
「予想外のことがいっぱいありましたけれど、自分の目標としてはちゃんと芝居が上達して変わっていけたらとずっと思っています。(演技で)スタッフさんや身近な人たちの心を動かせた時はすっごくうれしいですね。近い人の心を動かせないとスクリーンや画面を通したお客さんには絶対に伝わらないと思うので」
「それはあるよね」と藤原も我が意を得たりの表情。この2人が日本映画界の中枢を担う時代がしばらく続きそうだ。