「寒天の味」俳優 亀岡拓次 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
寒天の味
いやはや、たくさん笑わせてもらった。最近、仕事上の異動があって張り詰めた気持ちをどこかで緩めたかった時に、ちょうど良かった。フィリピンパブの客とホステスの会話のシーンの撮影で、本物の酒を使用するくだりは出色のコメディだ。
安田顕が演じる主人公・亀岡拓次は脇役・端役ばかりの俳優。その彼の、冴えないながらもいろいろあって退屈しない人生の一端を描いている。
ロケ先の信州でたまたま入った居酒屋の女性(麻生久美子)と、地元名物の寒天の話をするくだりがある。
寒天は無色透明でたいした味があるわけではない。
そのことを口にした安田に対して麻生は、そんなことを言ったら地元の人ががっかりするというようなことを言って、安田を困らせる。
安田は取り繕うように、良く味わえば深い味わいがあるとか言ってごまかそうとするのだが、この映画で描く亀岡拓次なる俳優の人生こそがこの寒天のように、うっかりするとそのおいしさに気付くことなく飲み込んでしまいかねないもののようだ。
他人の耳目を集める人生だけが面白いのだろうか。一人一人の人生にそれぞれの味わいがあり、時にそれは苦いばかりだったり、味も素っ気もないものに感じたりするのかも知れない。
しかし、全ての登場人物が恋や仕事を通じて自分にしかできない役を演じているこの映画を観ていると、人生の味は、おいしいかどうかということよりも、どのように味わうかが大切なことであることが見えてくる。
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