「ほろ苦くて優しい、愛と命の物語」湯を沸かすほどの熱い愛 ポチさんの映画レビュー(感想・評価)
ほろ苦くて優しい、愛と命の物語
夫の蒸発や娘のいじめ問題でバラバラになっていた家族を、余命宣告をされた主人公が残された時間の全てを費やして再びまとめ、更には周囲の人々さえも巻き込んでタイトル通りの「熱い愛」で繋ぐストーリーは、義理と人情に弱い日本人ならば涙腺を刺激される事間違いないでしょう。
劇中でも「不思議な人」と称される主人公は、余命僅かだなんて感じさせないほどの圧倒的な情熱と信念を持っており、自身の揺るがぬ愛や強さに基づいた行動は様々な局面を乗り越えていきます。
いじめに遭う娘へ今時の友達ママのように半端に対話して甘やかす事などせず、「逃げ出したって何も変わらない」と学校へ送り出し続ける毅然とした態度が、最終的に娘をいじめから完全に切り離してしまう流れには、監督の描写センスも相俟って特に感動しました。
監督の演出テンポなどの手腕は、地元の探偵に対する計算され尽くした細やかな扱いにも良く現れています。
地元探偵は長らく探していた行方不明の人物を、いとも容易く見付け出してくれます。
ですがまだ実母を愛している義理の娘については、主人公は一切実母を探そうと依頼する素振りを見せません。
恐らくは頼めばすぐに見付けてくれるでしょうし、主人公は上の娘には強制的に産みの親を会わせますが、義理の娘の母については全く触れません。
そこで探偵が義理の娘の母までも見付けてしまえば、探偵はただ物語をテンポ良く進めるための便利キャラとなってしまいます。
けれどそこを探させなければ、観客に探偵を単なる便利キャラと思わせることもありませんし、物語のテンポが滞ったり人間関係が複雑になることも回避できます。
そうして夫は探して義理の娘の実母は探さず観客が探偵の存在を忘れたタイミングで、最後に「主人公の実母をいつの間にか見付け出してくる」というサプライズで再登場させるのは、探偵を使い捨てない上手い使い方だと感心させられました。
これは余命僅かの人間が、遺してしまう愛する家族のために自身の命を懸けて奮闘し、最後にはその恐るべき愛を燃やし尽くしてみんなを包み込む、胸が焼けるような熱量を持った物語です。
手放しでハッピーエンドとは言えない余韻のあるラストはほろ苦く、けれど受け入れた家族から主人公への愛はどこまでも甘く優しくて、大人のためのおとぎ話と言えるのではないでしょうか。