TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ : インタビュー
宮藤官九郎&神木隆之介が明かす「TOO YOUNG TO DIE!」裏話
好きな子と付き合ってキスをして……そんな未来に胸をときめかせる男子高校生。しかし、突然の交通事故にあい、目覚めた場所が地獄だったとしたら? 人気脚本家・宮藤官九郎が、「TOKIO」の長瀬智也を主演に迎えた監督最新作「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」で描いた世界は、人間味あふれる地獄だ。メガホンをとった宮藤監督、神木隆之介が語り合った。(取材・文/編集部、写真/山川哲矢)
宮藤監督が生み出した地獄では、赤鬼キラーK率いる地獄専属ロックバンド「地獄図(ヘルズ)」らの爆音ロックが地を震わせる。鬼と音楽、この発想はどこからやってきたのだろうか。「長瀬君と『暑苦しいロックのコメディ映画ができないかな』という話をしたことがあって、自分なりに目新しいことがないかなと考えて、人間じゃない設定にしようと。地獄の鬼だったら、ハードロックやヘビーメタルの歌詞に出てくる『ヘル(地獄)』という世界観とうまくつながるんじゃないかなと思い、地獄の軽音楽部の話にしたんです」。
地獄でキラーKと出会い、同級生の少女と再会したい一心でよみがえりを目指す高校生・大助。ノリの軽いキャラクターで、演じた神木のイメージとは程遠いが「キャラクターを肉付けしていく時に、だんだんチャラくなったので神木君がいいんじゃないかなと思って(笑)。あんまりそういうイメージが無いから、新鮮かなと思いました」と宮藤監督はニヤリ。
オファーを受けた神木は、「『なんだろう?地獄?……地獄ってなんですか?』って思いました(笑)」と戸惑いながらも、2011年放送のテレビドラマ「11人もいる!」以来の再タッグとなる宮藤組に「音楽に携わることも、物語の役柄も初めてで演じたことがないことばかりだったので、新しいことをしてみたいと思い、ぜひ僕で良ければと参加しました」と飛び込んだ。
演技として楽器を演奏するのは、今回が初めてで「ギターも中高生男子が触るくらいしか弾いたことがなかったのですが、練習して長瀬さんや本業の方たちと一緒に演奏したり、すごいプレッシャーで緊張しました」。よみがえりをかけたロックバトルでは、ROLLY、マーティ・フリードマンといったプロミュージシャン扮するツワモノとバトルを繰り広げ、初挑戦とは思えないギタープレイを炸裂させる。これには、「グループ魂」として音楽活動もしている宮藤監督も、「すごいなあと思って。ギターソロが3つあったのですが、1番難しいソロを『これしかできません!』って(笑)。『これしかできないから、1番に持ってきてください』と言われたのですが、本当に弾けていたんですよ。大したものだなと思いました」と舌を巻く。
「ROLLYさんが『やるじゃん』と言ってくださって、すごく嬉しかったです」と照れ笑いを浮かべる神木は、「長瀬さんと一緒の演奏シーンが多かったのですが、引っ張ってくださって本当にリーダーだなと思いました。桐谷(健太)さん、清野(菜名)さんと『長瀬君がいたからこそできたね』と話していました。みんな地獄図というチームがすごく好きで『今度、地獄図で集まろうぜ!』と言っていたくらいです」とバンド愛を語る。
地獄図としてひとつとなった4人だが、桐谷は学生時代に軽音楽部に所属し、「ソラニン」など映画でも演奏経験はあるものの、清野は神木と同じくベース初挑戦。長瀬を中心としたバンド完成までの道のりを聞いた。
「今までの映画でも演奏シーンは何度かやっていたので、なんとなくノウハウは分かっていたのですが、今回は三軒茶屋のリハーサルスタジオで実際に音を出してリハーサルさせてもらったんです。その時、1番気持ちがひとつになった気がします。台本のセリフではなく、音で会話するというと格好良すぎますが、一緒に音を出したからこそ言葉で伝わらないことが伝わったのかなと。正直、セットにいきなり入っても、芝居だけでその日のうちにどこまでいけるか苦労することがありますが、リハスタで数時間練習しただけで打ち解けて、バンド感やチームワークがしっかりできた気がして、4人のお芝居を撮るのがすごく楽しかったです。単なる共演者とはまた違う関係ができたんじゃないかな」(宮藤監督)
そんな宮藤監督のもと、大家族を支える波乱万丈な貧乏学生、鬼特訓を施される高校生とユニークなキャラクターに挑んできた神木は、宮藤作品の魅力を「全部はうまくいかないけれど、結果的に楽しそうだからいいじゃんという物語」だと笑う。
「『11人もいる!』では壮絶な役を演じさせていただきました(笑)。最後は報われるのかと思ったら家が燃えてしまって、それでもその後キャンピングカーで旅をしながら家族で歌を歌うのですが、その終わり方が幸せそうなんです。この映画も全部うまくはいかないけれど、大助は悔しがりながらも結果的にすごく楽しんでいる。そこがすごく魅力的で、現実も全部がうまくいくわけではないから現実っぽい。見ていても演じていても、宮藤さんの作品は『うまくいっていなくても楽しめばいい』というところが、すごく人間味があって素敵だなと思います」。
神木の言葉を聞いていた宮藤監督は、「(最近は)小さい物事で大きく悩んでいる映画が多いけれど、この映画は大変な出来事なのにあまりクヨクヨしていない。それが自分の個性なのかな」とうなずく。「メッセージは特にないんですよね。台本を作る段階でテーマを決めてしまうと、それ以外のものが入れづらくなってしまうので、みんなで一緒に作りながら考えて、撮っているうちに見えてくればいいかなって。スタッフやキャストの皆さんと話しているうちに気付くこともたくさんあります」と現場でつかんだものを形にしていく。
監督、役者と楽しみながらつくり上げた物語は、実に奇想天外だ。出演者の神木でさえ「大助自身、全然ついていけないんです。僕も同じで、自分の出ている作品だから全部知っているはずなのに、初めて本当についていけなかった(笑)」と振り返る。「完成した作品を見た時に、『自分の芝居はどうなっているんだろう』ということではなく、出演した映画に初めて振り回された気がします。だからすごく楽しかったし、純粋に見ることができました。途中で何が何だか分からなくなるのですが(笑)、それも楽しみのひとつ。最後は、台本を読んだ時に感じた拍手したくなるような心の温かさと同じものを感じたので、素晴らしい作品に出させてもらったんだな」とかみしめる。
仕かけ人の宮藤監督は、「4本目ということもあって、今回は構えずに『僕がどういう映画を撮ったらお客さんは喜んでくれるかな』ということをずっと考えていたんですよね」と明かす。「今まではあまりそういうこと考える余裕がなかったんですけど、1年間にたくさんの映画が公開される中で、僕が撮る映画はやっぱり振り切れているということ、僕が演劇からスタートしているから演劇的な要素があるということ、笑いがいっぱいあってちゃんとしたエンタテインメントになっているということだと言う気がしているので、ちょっとは近づけたのかなと思いますね。気に入っています」