「枯れた味わい」ブリッジ・オブ・スパイ ハルさんの映画レビュー(感想・評価)
枯れた味わい
まず特筆されるのはマーク・ライランスの存在感。無言で進む冒頭のシークエンスで早くも引き込まれていくのだが、それは彼の表情が無表情なのに深みが感じられるから。そして踏み込まれてからのとぼけ方もカッコいいよ。
自分は40代だがスピルバーグという作家の成長、成熟の遍歴をリアルタイムで観ることができることの有り難みをあらためて今作で感じた。オッサン達が信念を貫くために硬軟織り交ぜて難題に立ち向かっていく姿は観ていて胸がすく思いだし、またそれを良い映像、良い本でこのようにガッチリとまとめ上げる手腕は相変わらずである。もちろんコーエン兄弟の本が素晴らしいのは言うまでもなく。
この作家の作品群を振り返っても今作は「まさに」という内容であり、コーエン兄弟もおそらくは意識して「らしさ」を散りばめたのではないかと思われる。
スピルバーグという作家はやはり個人の独自性だったりスタンドアロンたりえるかを提起し続けているわけで、それは彼自身の体験が背景にあるのは知られている通り。そして今作では主人公であるドノバンが捕虜になり非難されていたパワーズに対して次のようなセリフを言わせている。
「自分が確かなら周りのいうことは気にするな」
スピルバーグが言うんだから染みてくるセリフだ。
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