「彼こそスパイ。」ブリッジ・オブ・スパイ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
彼こそスパイ。
昨年はスパイ映画が続けて公開されたが今作は時期を外して年明け公開。
それが功を奏したかのような重厚感ある実話サスペンスに仕上がっている。
スピルバーグとコーエン兄弟にハンクスが揃ってつまらなかったらブン殴
りたくなるところだが、今作ではアベル役のM・ライランスがかなりいい。
しれっとした顔で沈黙を通す彼の信念が弁護を引き受けるドノヴァン(トム)
の仕事に対する信念と繋がり、二人がほぼ沈黙の友情を交わし合って別れる
ところにはうっすら感動が芽生える。人質交換の橋だったグリーニッケ橋が
不穏な空気の中で渡り合うことを意味しているのが実にスピルバーグらしい。
仕事人間の鑑達が国家の札として利用される。死刑を減刑させたのはのちの
人質交換を予測してのことだったというドノヴァンの先見眼と東ベルリンで
綱渡り的な交渉を続ける行動力にはよくその命が保てたものだと感心するが、
こんな一人間の尽力があってこそ他者の命は守られることを痛感する。本来
パワーズとアベルの1対1の人質交換をドノヴァンは2対1と譲らずに交渉する。
米国人学生プライヤーも、というところが彼の手堅い人間性を顕わしており、
これをまた成立させてしまうところが凄い。その間も家族には釣りだといい、
マーマレードまで買ってくるあの芸当と、TVで父親の功績を初めて知った
家族の呆然とした佇まいに安堵が流れる。彼こそ超一級のスパイじゃないか。
(アベルはあの割れるコインで足がついたらしい。車の後部座席には泣けたね)