知らない、ふたり : インタビュー
青柳文子、ゆるやかな磁力でたぐり寄せる映画原体験から今後の展望までの軌跡
青柳文子といえば、20代女性に人気の青文字系雑誌のモデルとして絶大な影響力をもつ、“カルチャー系女子”の代表格。その独特の存在感は、女優としてスクリーンに登場した時も、見る者を引きつける磁力となる。そして、そのゆるやかだが、確かな手ごたえに満ちた磁力は、カルチャー雑誌の監修など多彩な活動に波及していく。新作映画「知らない、ふたり」を手がかりに、映画原体験から、同作のメガホンをとった今泉力哉監督との出会い、「全部欲張りたい」という今後の展望まで、青柳の軌跡をたぐり寄せた。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
小さい頃に入退場自由の劇場で「映画ドラえもん」などを2回連続で鑑賞していた記憶があるという青柳は、1987年生まれの28歳。子どもの頃に見た映画で印象に残っているのは「火垂るの墓」で、「あの怖い映画はなんだったんだろうって、ずっと脳裏に焼きついていました」と明かす。そしてモデルの仕事を始めたばかりの頃、「映画がたくさん見られるから」と映画館でアルバイトをしていたことが、女優になるきっかけを生んだ。
当時の友人が映画を撮りたいと言っていたことから、遊び半分で数人が集まり、出演者となった青柳も神戸などを訪れて撮影を楽しんだそう。しばらくするとその気持ちも忘れ、2年ほど普通に過ごしていたという。「ある時、その監督さんをTwitterで見つけて、『ああ、あの時の』みたいなやりとりをしていて、それが今泉監督なんですけど。そうしたら、『(映画に)出てくれ』と言われて」。そこで演技をしてみたところ、「楽しいなって、次の作品もあったら教えてください」と女優の道へつながっていった。
今ではすっかり今泉作品の常連となった青柳が、男女7人のすれ違いを描いた恋愛群像劇「知らない、ふたり」で演じたのは小風。同じ靴屋で働く見習い職人の韓国人レオンにひそかに思いを寄せているのだが、客としてやってきた同じ韓国人のサンスに一目ぼれされてしまうという役どころだ。
影のある青年レオン役を韓国の人気グループ「NU’EST」のレンが演じているが、撮影前の青柳は「K-POPアイドルや~みたいな感じで、どうしよう」と緊張していたと明かす。いざ撮影が始まれば、「目が合った時にニヒルな顔をしてきたり、笑いをとったりしてくれていたんで、すごい話しやすくなりました」。同グループのミンヒョン扮するサンスが小風に告白する場面も、「コミカルな表情というか、さえない日本人男子みたいな感じもあり。かわいかったし、印象に残っています」と楽しげに振り返る。
青柳は当初、「ストーカーみたいなことをするけど、開き直っている」小風の気持ちに戸惑いを覚えたようだが、やがてある結論を見出した。「小風さんは過去に大きな恋愛をしたことがある人なんじゃないかと思ってきて。過去に何か失敗しているんでしょうね。だから『ただ好きなだけで幸せ』だったり、『相手を本当に思ったらこれがベストなんだ』という形をとっているのかもしれないですね」
そんな小風の恋愛観を象徴しているのが、「好きって、伝えればいいってもんじゃないからね」というセリフ。実は「お芝居している時はそんなにしっくりきていなかったんですよ」と本音をもらす青柳だが、後に「確かにと思ったことがあった」という。「そのままの状態の相手が好きなのに、私という人間によって、その人の何かを乱すと、その人じゃなくなる……。だから伝えちゃダメじゃん、みたいに」。パズルのピースを一つひとつ当てはめるように言葉を選びながら解き明かす。
いくつもの“すれ違い”を通して“好き”の本質に迫る本作は、前作「サッドティー」に続き東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に出品された。今泉作品の「日本人的なわびさび」が海外の観客に理解されたのか興味津々の青柳は、予想外のシーンで笑いが起きたことに驚き半分、嬉しさ半分の様子。ちなみに外国人の笑いが一番大きかったのは、小風がサンスからラブレターを手渡された直後に、入れ違いでレオンがやってくる場面だったという。
「私(小風)はレオン君のものですみたいな感じでいるわけじゃないですか。だから、見られてヤバッて思ったんでしょうね、レオン君はそんなの期待していないだろうにも関わらず。立場がないというか、申し訳ない気持ちに勝手になっているんだと思って、私はいつでもレオン君一筋よ、みたいな気持ちを絶妙な顔で表したつもりです(笑)」
2015年はテレビドラマ「ゴーストレート」で主演を務め、今泉監督が演出した「アジェについて」で初舞台を踏んだ。「また舞台に出演したい?」という質問に、背筋をスッと伸ばし「はい!」と答えた青柳が掲げる女優としての目標は?
「いろんなことを器用にこなせる人にも憧れるんですけど、それよりもこの役は本当にあの人でハマリ役だよねみたいな、そういう意味でのキャラの強さのある女優がいいです。でも、これじゃないとイヤだというのはないので、まだ試行錯誤中です。いろいろやってみたい時ですね」
では映画監督に挑戦という選択肢は。「昔は(やってみたいと)思っていたんですけど、いまは思っていません」ときっぱり。なぜなら、「わがまま言うだけでいいならいいんですけど、いろんなことを考えなきゃいけないし、いろんなすごい人を見ていると自分にはできないなと思っちゃいます」。だが、「プロデューサーのほうがやりたいですね。そっちのほうが向いている気がします」と朗らかに付け加える。
今後は「いろんなことに興味があるので、いろんなことができたらいいなとは思っている」と明かし、「ひとつのことに集中しないと、ひとつのことが疎かになるぞみたいに言う人はいるんですけど、別にできればいいじゃんと思っているので全部やりたいです(笑)。それぞれ全力にやればいい、ってかできる……」と、自分の気持ちを確かめるかのように言葉を継ぐ。その頼もしい心意気が、ゆるやかで、確かな手ごたえに満ちた磁力の発信源なのかもしれない。