桜ノ雨 : インタビュー
期待の若手女優山本舞香、笑顔を封印して臨んだ初主演作は「楽しくてしょうがなかった」
怖いもの知らずは、彼女が無敵の18歳だからか? それとも生来のものか? 「『肝が据わってるね』って言われます(笑)」――。山本舞香はそう言ってカラカラ笑う。13歳で三井のリハウスガール、昨年放送の「南くんの恋人~my little lover」ではヒロインの座を射止め、今年はJRのSKISKIキャンペーンに出演するなど、着実なステップアップを遂げてきた彼女が、その天真爛漫な笑顔を封印して臨んだ初主演映画「桜ノ雨」が公開となる。(取材・文・写真/黒豆直樹)
ボーカロイドで火がついてミリオンセラーを達成し、卒業ソングの定番となった「桜ノ雨」をモチーフに製作された本作。静岡の小さな海辺の街を舞台に、合唱に青春を燃やす高校生たちの姿が瑞々しく描き出される。
最初に、映画のことなど全く知らされぬまま、楽曲「桜ノ雨」を聞かされた。「マネージャーから『この曲、聞いてみて』って言われて、聞いて『いい曲だな』と思ってたら、数日後に『これ、映画化されるから』と知らされて『そうなんだ!』と驚いて、しかも『主演をやらせてもらえることになったから』と言われて『え!? …マジかっ!』って(笑)。驚いたけど、嬉しかったし、せっかくいただいたチャンスだから全力で挑もうと思いました」。
山本が演じた未来(みく)は「これまで全く演じたことのないタイプ」という、なかなか言いたいことを口に出せない内気な少女。“暗い”と言ってもいいほど、笑顔を見せない恥ずかしがり屋の性質を山本は「正直、素の私自身とは正反対の要素だった(笑)」と語る。
「だからこそすごく難しかったし、この役を通して得られたものはすごく大きかったのかな……。内気な子ってどう動くのか? と考えて、目線や手の動き、声のトーンなどすごく細かく気を付けるようにしました」。
特に、憧れのハル先輩(浅香航大)とのシーンのオドオドした様子は見ているこちらがもどかしくなるほど! スクリーンの中の伏し目がちでこわばった表情の少女が、目の前にいる山本と同一人物とはにわかには信じられない。
「ハル先輩の前でモジモジしながら恥ずかしがってるのはすごく難しかったですね。屋上で花火を見る時もどこまで笑っていいの? と(笑)。未来は言いたいことが言えないだけでなく、そもそも、自分の気持ちにさえも気づいてない女の子。私自身は感じたことをストレートに伝えちゃうタイプなので、演じながら未来に言いたくなりましたよ。『ちょっと、それ恋だから!』って(笑)」。
撮影は約2週間。合宿形式で集中して行われたが、自身と正反対の人間を演じていてさぞやストレスが溜まったのでは?
「それは全くなくて、知らない役、自分とは全然違う子になり切るのが楽しくてしょうがなかったですね。泊まり込みで集中して撮影というのも初めての経験で、自分の居場所は現場だったしその間もずっと未来でいて、山本舞香に戻る瞬間があまりなかった。そういう感覚も初めてに近かったですね。2週間は短かったかなぁ……うん、あっという間でしたけど、1日が長かったですね、早朝から夜まで撮影で(笑)。終わった時は、寂しくて泣いてしまいました。私、いつも泣いちゃうんですよ。作品や役とお別れするのが寂しくて」。
そこまで芝居にのめりこむほど、女優という仕事を愛しているが、元々、強く「女優になりたい!」と願っていたわけではない。「スカウトで事務所に入って、モデルをやることになって、いろんな衣裳やメイクで違う自分になるのがすごく楽しかったんです」。
女優デビューは2011年の連続ドラマ「それでも、生きてゆく」。ある少年事件の陰を背負う加害者の家族と被害者の家族の交流を描いた社会はドラマで、満島ひかりが演じたヒロインの少女時代を演じた。
「私自身、当時は難しすぎて、作品の意味自体、理解せずにやってました。ポンっと現場に入れられて『はい、あっち向いて』、『こっち向いて』、『はい、泣いて』……って泣けないですよ(笑)! 何も考えられなかったし、すごく大変で、いまでも『あれは何だったんだろう? って感じでしたが、あの経験がなかったら、いま女優を続けてなかったかもしれないなって思います」。
なにが「きっかけ」というわけではない。その後、女優として作品を重ねていく中で楽しさが芽生えてきたという。「徐々にですね。台本を読んでいて『あ、面白い。頑張りたい!』と思えるようになってきて、そう思えるなら、きっと女優としてやっていける。もっとやりたいって」。
JRの駅には彼女のアップのポスターが並ぶ。中川大志と共演した「南くんの恋人~my little lover」と併せて、昨年から知名度が急上昇した感があるが、当人はそんな周囲の喧騒にも「全然、実感がない(笑)」とあっけらかんとしたもの。
「あと5年経ったら私、どうなってるんだろう? ってよく考えるんです」――。13歳のデビューから5年を経てそう語るが、そうはいっても彼女は5年後も“まだ”23歳である。「いや、20歳を超えるかどうかって、私の中ですごく大きいんですよ(笑)。いまは、どんな役がやりたいかってよりも、とにかくいただいた仕事に全力で取り組んでいきたいです。」
きっと5年もかからない。同世代はもちろん、駅で彼女のポスターを見て「このコ、誰?」と思っているサラリーマンも近いうちに彼女の名前を覚えることになるはずだ。