「割礼が判断基準・・・」ふたつの名前を持つ少年 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
割礼が判断基準・・・
42~43年の冬。寒さゆえ、民家でコートを盗もうとして追いかけられるシーンから。森の中で凍えそうになりながらパン職人だった父の言葉を思い出す。両親のことを忘れても、自分の正体を隠してでもユダヤ人であることを忘れるな・・・。8歳の少年にどこまで理解できたのだろう。そして生き抜くことだけを考え、一軒の家にたどり着く。
その半年前、アブルム、ヨサレ、イセックたち孤児の集団に出会い、「ドイツ人はパルチザンを恐れて森に入らない」ことを教えられたスルリック。盗みや生きる術を学んだが、他の孤児たちはみな捕まった。そしてパルチザンの家族を持つヤンチック夫人に架空のポーランド人としての作法を学び、ユレクとしてポーランド人の家族に入る。しかし、ユダヤ人とバレて・・・とてもいい家族だっただけに去るのが辛い。
大農場で働けることになったが、事故により右腕切断。生きる勇気さえ奪われそうになるが、周囲の看護師や病人たちは皆優しいのが救いだった。しかし、苦難の道は続き、SSに追いかけられる運命。ヤンチック婦人から「長居しちゃ駄目よ」と忠告を受けるユレクだったが、森の村もSSによって焼き払われ、少女アリーナのいる農場で静かに暮らすことに。キリスト教の洗礼を受け、一生ここにいたいと願う。しかし・・・
苦難の日々と、執拗に追うナチス。どうして人は残酷になり、優しくなれるのか、人間の本質さえも描こうとしているところがすごい。シオニズム運動も絡んでいるのか、終盤には孤児施設の世話人も登場してユダヤ人の生き方をも描くが、どうもあっさり感じられた。サッカーを教える原作者本人も登場するし、世話になった農場と孤児施設を選択させるなんてのも意味深。父親が撃たれるシーンが重くのしかかるものの、右腕を失ったエピソードやヤンチック夫人の村のほうがつらいものがあった。そんな少年の辛い日々なのに、児童向けであるかのように楽し気な音楽が逆に息苦しくなった。