「内容のあるいい映画。正統派という感じ。」黄金のアデーレ 名画の帰還 Kaoriさんの映画レビュー(感想・評価)
内容のあるいい映画。正統派という感じ。
主人公の女性は、ロサンゼルスで素敵なファッションに身を包んでブティック経営をしている洗練された女性。夫は先立ってしまったけれど、一見、幸せそうに見える。
でも実は、若い頃に両親を祖国に置いてアメリカへ逃げなければいけなかったユダヤ人。幸せな時間を過ごした幼少時代と、ナチス迫害時代、在米で順調そうな現在の三つの時間軸で構成されている。
それまで過去は過去、と割り切って過ごしてきた彼女が、ある日を境に絵画を取り返すため、同じ祖国出身の若い弁護士に相談し、オーストリアを相手に訴訟を起こす。初めは報酬目当てだったその弁護士も、女性と時間を過ごすにつれてオーストリアに対する想いが強くなっていく。
凛としたその女性の過去には、肖像画の被写体であり身近だった憧れの叔母の姿があって、その人の影響を受けているんじゃないかと思わせられて胸が詰まった。
この映画は絵画を取り返すまでの長い年月の間に、未だに残るユダヤ人に対する侮辱、お金目当てで近づこうとする輩などと遭遇して、大変な時間を過ごしたんだろうなと想像できた。
この映画に関してまったく予備知識がないまま観たけれど、彼女の回想シーンや裁判をするにあたっての気持ちの変化など、始終感情移入して話に引き込まれていた。見終わったあとは重厚感のある余韻が残った。重い雰囲気になりがちなストーリーなのに、クスッと笑えるジョークも混ざっているし、素晴らしい芸術品、主人公の上品なファッションや、出で立ちのお陰か、視覚的にも心地よい刺激を受けて、そこまで暗い感じはしなかった。久しぶりに内容のあるいい映画を観たなという充実感がある。また観たいと思えるし、正統派の映画、落ち着いた映画、実際にあった話の映画が観たい人にはお薦めしたい。