黄金のアデーレ 名画の帰還 : 映画評論・批評
2015年11月24日更新
2015年11月27日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
名画にまつわる悲痛な家族の歴史と、二人三脚で挑む法廷闘争を緻密な構成で描く
物語の縦糸を織りなすのは、帝政オーストリアの画家クリムトが1907年に完成させた「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」にまつわる家族の歴史。横糸を織りなすのは、アデーレの82歳の姪マリア(ヘレン・ミレン)と新米弁護士のランディ(ライアン・レイノルズ)が二人三脚で挑む絵の相続権をめぐる法廷闘争。この縦横の糸が、実にうまく編みこまれた映画だ。さらに縦糸は過去から現在へと流れる時間軸、横糸はアメリカからオーストリアへと至る地理軸を形成している。緻密な構成だ。
マリアはオーストリアのウィーンに住む裕福なユダヤ系一族の出身。1938年、オーストリアを占拠したナチスにアデーレの肖像画を含む全財産を没収されたとき、20代のマリアは夫と共に命からがらアメリカに亡命した。そんなマリアの胸に今も残るのは、両親を故郷に置き去りにしてしまったことに対する深い悔恨だ。だからマリアにとってアデーレの絵は幸せだった時代の家族を思い起こさせるものであると同時に、ナチスに奪われた物の大きさを思い出させるものでもある。回想形式の縦糸から紡がれる物語には、痛みと悲しみが宿る。
それに対し、横糸の物語は痛快な味わいだ。親子というより祖母と孫ほど年齢の違うマリアとランディが、絵の奪還という目的に向かってチームになっていくところは完全にバディムービーのノリだ。ランディと共に闘うことにより、マリアは辛すぎる過去と正面から向き合う勇気を得る。一方、オーストリアへの旅を通じてマリアの心の傷の深さに気づいたランディは、情熱を持って仕事に打ち込む芯のある弁護士に成長する。お互いに触発しあう関係を築くふたりは、「あなたを抱きしめる日まで」のジュディ・デンチとスティーヴ・クーガンのコンビに負けず劣らずチャーミングだ。
それにつけてもヘレン・ミレンが半端なく格好いい。紺色のスーツ姿もピンクのシャツ姿も様になる。「歩く品格」のような着こなしに見とれてしまった。
(矢崎由紀子)