「私達は覗かれてコントロールされていく」スノーデン DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
私達は覗かれてコントロールされていく
ストーリー
エドワード スノーデンは2004年、大学を離れると、ごく普通のアメリカ合衆国市民としての愛国心から、軍隊に志願する。日本のアニメやコンピューターゲームにはまって、オタク少年時代を過ごし、インターネット上で新しいゲームのソフトを開発するなどに時間を費やして高校も大学も中退してきた。ここで 軍人になって心身ともに鍛え直してみたい、という訳だ。しかし彼は、軍事訓練中に事故で両足を骨折して、軍人になる夢を捨てざるを得なかった。
そこで彼は米国中央情報局(CIA)に面接に行く。CIAは9.11のあと、局員を大幅に増員する必要に迫られていた。運よくスノ―デンは採用される。新人として訓練を受け始めて見ると、スノーデンのコンピューター技術が、ずば抜けて優れていることがわかり局長から目をかけられてシステムエンジニアとして重宝されるようになる。
彼はCIAと、NSA(国家安全保障局)で、コンピューターセキュリテイーの業務に就いて、スイスのジュネーブや日本の横田基地に派遣され情報収集業務に携わる。日本では中国からのサイバーアタックから防衛するための技術を開発 指導していた。優秀な仲間たちに恵まれ、私生活では、カメラマンの恋人と一緒に暮らすようになり、技術者として公私ともに順調だった。高額のサラリーも保証されている。アメリカ合衆国大統領選挙が行われ、グアンタナモベイ収容所の閉鎖、核兵器縮小を提唱するバラク オバマが大統領選挙で勝ち抜いた。スノーデン自身は共和党支持者だったが、尊敬するジョン マケインがオバマを支持するならそれが良いと考えていた。
しかし、すべてが順調という訳にはいかない。CIAとNSAの情報網は、とどまることなく拡大されて、テロの要注意者だけでなく全世界の普通の人々まで監視する体制が出来上がっていた。フェイスブック、ツイッター、アップル、マイクルソフト、ヤフー、グーグル、パルトーク、ユーチューブ、スカイプ、AOLなど、すべての民間通信企業がNSAに協力していた。これでは世界中に使用者の信頼を裏切っていることになる。CIA,NSAの盗聴システムの前では、個人の秘密など何も許されない。自分が上司に提供した情報によって、親しくなった友人がCIAの罠にはまって、家族を失うなどの不幸に陥る姿を目の当たりに見て、徐々にスノーデンはCIAとNSAの存在そのものに疑問を抱くようになる。
疑問を口にしただけで、今度は自分が恋人との友人関係や家の中での会話までがボスによって盗聴の対象になっていることを知って、スノーデンは、世界中の人々が自分たちが知らずにいるうちに私生活が盗聴され情報収集されている事実を公表しようと決意する。
休暇を取り、恋人を実家に帰し、ドキュメンタリー映像作家ローラ ポイトラスと、英国ガーデアン紙記者のグレン グリーンウオルドに連絡を取り、香港で合流、CIAとNSAのやっている膨大な秘密情報を暴露する。
という事実に基ずいた半ドキュメンタリー映画。社会派の監督オリバー ストーンが制作した。
事実、スノーデンの2013年5月のCIAの実態暴露は、世界中を震寒させた。CIAは世界中のインターネット民間企業の協力を得てインターネットと電話回線を通じて個人の情報を個人の了解なしに盗聴、情報収集していただけでなく、各国大使館と 同盟国であるフランス大統領やドイツ首相の個人パソコンデータや携帯電話の盗聴までハッキングしていた。これをはじめのうちは、オバマ大統領も知らなかった。あきらかに国家犯罪だ。
スノーデンは米国から拘束されることを避けるため、香港から脱出、アイスランドに政治亡命を求めるが拒否され、ベネゼイラのチャンドス大統領による亡命受け入れ、エクアドル政府の亡命申請受持、などを経て、ロシアに向かう。この間のスノーデンの命を懸けた逃走劇には本当にハラハラし通しだった。毎日、ニュースにかじりついていた記憶がある。スノーデンはモスクワ空港のトランジットというロシアの司法権力が及ばない場で、アメリカのスノーデン拘束要求にも応じず、ジュリア アサンジのウィキリークの援助と支援、弁護士のアドバイスを受けながら、ロシアとの交渉を続けた。
私たちは、いまウィキリークのジュリアン アサンジに対して米英豪諸国がどんな卑劣な方法で、彼をロンドンのエクアドル大使館に幽閉させて、彼の口を封じようとしているかを知っている。アメリカ軍事情報を公表したとして、秘密軍事裁判と秘密軍事監獄で、いまもチェルシーマニングがいかに厳しい懲罰で苦しんでいるのか知っている。だから、スノーデンがCIAの手に落ちたらどんなことになるか、子供でも先が読める。国家犯罪を暴露した、勇気ある人に安全で安泰な一生は保証されない。
映画ではスノーデンが秘密情報をマイクロチップにコピーして持ち出すスリル満点のシーンと、ドキュメンタリー映像作家ローラ ホイトラスとガーデアングレン グリーンウオルド記者と合流して、記事が発表されたあと、香港を脱出するまでの、スパイ映画的ドキドキハラハラシーンが、見所になっている。初めて、ことの細部を映画で知らされて、なるほどと、頭の良いスノーデンに舌を巻く。世界中から集まって選りすぐりのスパイ養成所と化したCIAで働く優秀な仲間たちは、数か国語を操るなど、当たり前。そんな彼らの職場を、これまた上部機関が盗聴しているが、仲間と手話で会話するなど、スノーデンは、自分の多才な能力を発揮する。CIAオフィスには入る時も出るときも全身スキャンで口の中から肛門まで調べつくされる。厳戒ゲートからいかに、秘密情報をコピーしたマイクロチップを持ち出したのか。小さなミス、ちょっとした不自然さがあったとしたら、今日の私たちが知らされたCIAの国家犯罪は、知らされることなくスノーデンの命は闇に葬られていた。勇気あるスノーデンは現代の英雄といって良い。
さて、私たちはいま毎日使用しているインターネットと携帯電話を通じて「まるはだか」にさらされていることが分かった。CIAの検閲システムで、電話をすれば通信者の名前、住所、相手の名前、住所、居所、通信内容の録音、通話に利用されたカードなどを、たちどころに知られる。インターネットメール、チャット、通話ヴィデオ、写真、ファイル転送、ヴィデオ会議の録画、スカイプ、そこから割り出された親族、友人たちの住所、職業、銀行口座、給料、ホリデーの予定まで すべての情報を把握されている。おまけに、自分だけでなく、自分が会ったこともない遠い親戚が どっかの国で浮気性の男に騙されてお金をむしり取られていることや、友達の友達がテロリストの友達に繋がっているかもしれないことまで、ハッキングされている。私が知らない私まで敵は知っているわけだ。
映画のなかで、こんなシーンがある。スノーデンは恋人に、国がすべての私生活をハッキングしている、と打ち明ける。恋人にはその「意味」が解らない。なぜそれがいけないの?私には秘密なんてないわよ。あなたを本当に愛しているから疑ったりしないで。わたしたちは幸せじゃないの、と。スノーデンは、説得をあきらめる。 言ってもわからない。
国によって「まるはだか」にされた人々が、秘密なんてないから見られても大丈夫、と言って声を上げないでいると、おとなしいヒツジの群れは兵器産業の意向通りに意味のない戦争に駆り立てられ殺されていく。国は国をテロから守るためと言っているがそれは口実に過ぎない。国がハッキングして掌握した情報は、人々をコントロールするために使われる。情報を沢山持つ国が、世界を掌握する。社会全体が情報収集されることによってコントロールされる。私たちが私生活を侵害され「まるはだか」にされていることが問題なのではない。そういった人々の情報を、国が収集することで国によって社会全体がコントロールされて、方向付けられることが問題なのだ。
スノーデンは、もともとは共和党支持者でアメリカ合衆国憲法の基本理念である「リバテイ」自由を自分の信条としていた。個人の自由が守られる国でなければならない。国は個人の了解なしに個人の私生活を脅かしてはならない。強い個人の自由なしに、それを支える国はありえない。そういった強い信念がいまに至ったのだと思う。
現在スノーデン本人のツイッターアカウントを、世界中のフォロワーが見守っている。彼の出す情報は瞬時に世界中の支持者の間に広まる。私たちにできることは、スノーデンやジュリア アサンジやチェルシー マニングを支持し、国による情報収集。盗聴、ハッキングの監視システムを壊すこと。マスコミの垂れ流す情報をうのみにせず、草の根の情報を大切にすること。国による特定秘密保護法を廃棄させること。など、たくさんある。
とても良い映画だ
この映画の価値を大変丁寧に解説されていますね。
この映画の映画としての出来とは別の、社会的価値がイマイチ理解出来なかった人には必ず読んで頂きたい評論ですね。