劇場公開日 2017年1月27日

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スノーデン : 映画評論・批評

2017年1月17日更新

2017年1月27日よりTOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー

世界中を驚かせた“告発者”の残酷なる心の旅と、まっすぐな信念を描く

映画ファンが観る作品を選ぶ理由は人それぞれ。オリバー・ストーン監督の新作だから「スノーデン」をチョイスする人は少なくないだろう。筆者としてはタイトルロールの主人公、元CIA職員エドワード・スノーデンに少しでも関心のある人、またはその名を耳にしたことはあるけど詳しくは知らないというすべての人に鑑賞を勧めたい。

2013年6月にアメリカ政府の国際的監視プログラムの存在を世界中に知らしめ、“史上最大の内部告発者”としてすでに歴史に名を刻んだスノーデン。この青白い顔にメガネをかけた若者をめぐる映像作品には、アカデミー賞に輝いたドキュメンタリー「シチズン・フォー スノーデンの暴露」という逸品があるが、本作はスノーデンが“暴露”に至るまでの約10年間の軌跡を映し出す。そしてプライベートにも積極的に踏み込み、彼の人物像をくっきりと描き上げる。

2004年に大怪我を負って軍を除隊したスノーデンは、9.11テロで傷ついた国のために働きたいと願う普通の青年だった。CIAに転職した頃、彼が恋人リンゼイ・ミルズと出会うエピソードが印象深い。スノーデンはインドア派の保守、リンゼイは快活でリベラルと性格や思想は正反対だったが、共に日本のサブカルが好きで不思議とウマが合った。

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そんな親しみを抱かせる若きカップルは、スノーデンの転勤に合わせ、スイス、日本、ハワイでの生活を経験していく。その過程でスノーデンは出世を遂げるが、対テロ捜査の名のもとで政府が行う不法行為を知り、上層部に自身の日常まで監視されているのではないかという強迫観念に囚われる。ストーン監督の狙いは、劇映画の枠組みで扱うには複雑すぎる監視プログラムの仕組みを解説することではない。その恐るべき実態を知ったスノーデンの動揺や疑念が、完全な失望へと変化していった残酷な心の旅を映像化することだ。

つまり本作は“エモーショナル”な心理劇なのだが、観客が本当に心揺さぶられるのは、ロシアに亡命したスノーデンがネット中継で公の場に姿を現すラスト・シーンだ。そこにはなぜスノーデンが人生のすべてを捨てて、危険な告発を決意したのかという疑問の答えが用意されている。筆者はそこで発せられる驚くほど真摯で、まっすぐな気高さに満ちた言葉に魅了され、それがスノーデンの仕種やアクセントを完コピしたジョセフ・ゴードン=レヴィットの見事な演技であることさえ忘れさせられてしまったのだった。

高橋諭治

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