「つまらなく、退屈で冗長な映画」SAINT LAURENT サンローラン おれものさんの映画レビュー(感想・評価)
つまらなく、退屈で冗長な映画
あまりにも長い2時間半で、体感的には6時間ぐらい映画館にいるような感覚を持った。
サンローランの伝記的な内容を期待して見に行くとかなりの失望感を味わえる。かといって、エンターテイメント性を求めて行くとそういったものは何もないということに気がつく。
サンローランは冒頭からファッション界で成功していてなぜ「モードの帝王」と呼ばれるに至ったかは全く描かれていない。そして、成功した後に創作に苦しみ時代を作っていったプロセスがあるわけでもない。劇中のサンローランは常に創作活動をしていてアイディアが枯渇していく描写は一切なく、デザインが仕上がらない時は常に単に私生活が荒れているだけなのである。芸術家の苦悩という点でもこの映画は失敗している。
この映画にあるのは、酒、ドラッグ、ゲイのセックス、タバコ、タバコ、とにかくタバコだけである。
とにかくこの映画は焦点が絞りきれていない。
サンローランの周りの人間関係の描き方は淡泊でそれは生涯のパートナーであるピエールについても同様である。サンローランの周りには肉体関係はないものの(彼はゲイだからだ)、彼を献身的に支える優秀な女性が存在するが、彼女達がどのような気持ちで人格破綻者の天才に寄り添っているかはわからない。サンローランの情夫のジャックに至ってもただ快楽に溺れたセックスをしているだけで、そのことがサンローランの創作に及ぼした影響は一切ない。彼がいてもいなくてもサンローランはデッサンし続け、物語には何の影響もない。
また、この映画は時系列をバラバラにして物語が進んでいくが、このことによる演出効果も全くない。例えば、映画の後半になって序盤の意味のわからない場面がつながるという手法はよくあるものだが、この映画に限ってはどの場面も了解可能で、単純に時系列をバラバラにしただけであるため意味がない。監督は何をしたかったのか。
そして最後の1976年のコレクションのシーン。劇中ではサンローラン自身が唯一満足の行くコレクションであったと述べるコレクションであるが、そのシーンの爽快感は全くなく本当に淡々と進む。というかこの映画はファッション自体もそのデザインに至った経緯を全く描かないのでそこに感動はなく観ている側も「早く終わらないかな」という感想しかない。
この映画で良かったシーンは、サンローランが中絶をする女性スタッフに優しくした後に別のスタッフにその女性をクビにするように伝えるというシーンのみである。ここだけは、「女性の味方」と呼ばれていたサンローランが決して女性のためにデザインを行ったわけではなく自分の欲望の赴くままデザインを行っていたという解釈が見て取れて挑戦的で良かった。
また、役者の演技は全てよく、脚本さえ良ければ良い映画になっただろう。
無意味で平坦な出来事が映画の大半の時間を埋め尽くし、観ている人間は無の境地に行き着く。
成功しても心の空間が埋まらない天才サンローランと同じ気持になって劇場を後にしたい方にはオススメ。