「いち早く暗殺を計画した男の半生」ヒトラー暗殺、13分の誤算 everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
いち早く暗殺を計画した男の半生
邦題からイメージしていたのは、軍のクーデター計画の方だったのですが、一般ドイツ人によるこちらは、本作を観るまで知りませんでした。原題の方が作品内容とマッチしていますね。もっとも、計画者の名前と分からなければ全くピンと来ませんが。
地方出身でやや女たらし?な演奏家兼修理屋だったGeorg Elserが、なぜ総統の暗殺を企てたのか。
ナチスは組織的犯行と決めつけ、拷問と尋問を繰り返すのですが…。
残酷な取り調べとElserの過去が交互に描かれます。
音楽を愛し演奏する傍ら、手先が器用で時計や家具の修理で生計を立てていた彼の地元にも、少しずつナチスの風が吹いてきます。
思想の自由、そして会話の自由まで奪われているのに、なぜか大勢がヒトラーに熱狂していく。周囲から取り残されていくような、自分の中で芽生える違和感を否定しなかったElser。
隣人がユダヤ人と暮らしていたっていいじゃないか。
共産党員と友達だっていいじゃないか。
挨拶はこんにちはでいいじゃないか。
「自由を失ったら死ぬ」
Elserは自分から奪われた自由を取り戻し守りたくて行動を起こしたように思えました。
もしあの晩、霧が出なければ。
もし通常通り、飛行機が飛べば。
ただ、やはり彼もテロリストですよね。
相手が結果的に5500万人以上(本作より)殺したような人物だから、確かに成功していればその後の被害は食い止められたと言えるかも知れません。しかし、巻き添えを食らった被害者達からすれば、真の英雄とは呼べないのかな。
拷問シーンは観ていて辛いです。
良心に蓋をしたかのような、ほぼ一貫して我関せずの態度だった書記の女性。自分も含め、大半の臆病者は彼女のように無表情にやり過ごすことだけで精一杯かも…。
Elserの思考を悲観的、被害妄想とけなすナチス党員らの考えは、むしろ心酔しすぎた誇大妄想でした。
「真実は我々がつくる」
ゲシュタポ局長の台詞が…、あれ?
“Vice”の米政府高官らの思惑を思い出させました。
冒頭の集会で白バラが飾られていて、おやっと思いましたが、白バラ抵抗運動はまだ無関係ですね。
手や膝の傷が物語っていると言いたいのでしょうが、Elserが地道に爆弾を仕掛けていった所に、もっと時間を割いても良かったかなと思いました。