劇場公開日 2016年2月11日

「曇りガラスの向こう側」キャロル ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0曇りガラスの向こう側

2016年2月20日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

久しぶりにため息が溢れるほど美しい映画を見た。映像、音楽、そして、ラストシーンに至るまで、文句の付けようがない。見る側の好き嫌いこそあれど、この物語を描く上で、過不足は一切ない。

まず、何よりも映像が素晴らしい。明度を欠いたマットなフィルムの中に描き込まれるビビッドなヒロインたちの姿に目を奪われる。同性愛がタブー視されていた時代の女性同士の恋愛を描いた本作であるが、“恋は盲目”と言わんばかりに背景を簿かし、互いの視線を強調させてくる。

キャロルを見つめるテレーズの眼差しは恋する少女の瞳だ。世間体を気にすることも、恋の痛みを味わったことのない無垢な彼女。そんな彼女に対して、キャロルはそれがどれほど難しいことかと、全て知り尽くしたかのような鋭い眼差しで見つめ返す。キャロルは人妻であり、一児の母である。それ故か、キャロルは母親のような寛大な愛でテレーズを認め、包み込んでいく。そして、二人の恋と愛は女性同士の恋愛へと昇華していく。

だが、これは同性愛映画としての枠を超えていく。つまるところ、本作は2人の禁じられた恋愛模様を軸にしつつも、自分の気持ちと向き合うこと、自分らしくあること、ひいては自分自身を解き放つ方向へシフトする。自分の存在意義を語るキャロルのセリフが胸に響く。

車、ショーウインドウ、部屋の窓など、曇りガラス越しにヒロインたちの姿を映し出すのは社会やモラルというフィルターの暗示であろう。悲しいかな、社会の中で生きる上で自分の気持ちに正直でいることはいつの時代も難しいということを、ただただ静かに伝えてくる。だからこそ、一点の曇りなく彼女たちの視線が交わる“あの場面”が目に焼き付いて離れない。言葉だけで本作を説明すれば、きっと陳腐に聞こえるだろう。だが、本当に優れた映画とは映像で全てを語るのだ。

Ao-aO
さんのコメント
2016年2月23日

素晴らしい意見ですね!

瞳