ロマンス : 映画評論・批評
2015年8月18日更新
2015年8月29日よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
人生のままならなさすら愛おしく思わせてくれる監督の視線
タナダユキ監督作には、登場人物はもちろん、その人物を演じた俳優のことまで好きにならずにいられない不思議な魅力がある。
7年ぶりのオリジナル作品である本作もまた然り。ロマンスカーの成績優秀なアテンダント・鉢子が、胡散臭い乗客の男・桜庭のペースに巻き込まれるままに仕事を放り出して母親を探して箱根をめぐることになるという、いささか無理があるように思える設定であってもだ。
なぜなら、思うようにならない人生を送る人々へのタナダの優しい視線は、そんな人生のままならなさすら愛おしく思わせてくれるから。噛み合わないやりとりを繰り広げながら箱根めぐりを続けるうちに解き明かされていく鉢子が抱え続けてきた思いが彼女を動かしていくことも、納得させてくれるのだ。
そもそも大島優子にアテ書きされただけあって、鉢子の真面目さは大島自身に重なるもの。だが、そうした大島の持ち味を超えて、タナダは、大島優子というアップに耐える女優の表情の魅力を存分に引き出してみせる。
クライマックスで鉢子が見せるこらえきれない涙はもちろん、制服姿の営業用スマイルの奥にさえも、嫌い続けた母親の女心もわかる年齢になるまでいろいろあっただろう鉢子の人生を滲ませて、大島の表情は言葉以上に多くを語るのである。ラブホテルのベッドでの無表情は、自分を客観的に見つめる鉢子のせつなさと強さを映し出して出色。そして、国民的アイドルグループのセンターをつとめたこともあるほどのスターだからこそキマる映画的なラストショットの魅力的なこと。
エンドマークのその先をポジティブなものだと信じさせてくれる世界が、タナダユキ自身(ペンネーム・大熊猫子)によるエンディングソングとあいまってさらに軽やかになる。
(杉谷伸子)