バレエボーイズ : 映画評論・批評
2015年8月18日更新
2015年8月29日よりアップリンク、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
バレエダンサーを夢みる美少年たちの“心の成長痛”をすくい取ったドキュメンタリー
「リトル・ダンサー」のビリー・エリオットは父親に「男がバレエをやるなんてバカげている」と頭ごなしに否定されていたが、時代は変わった。アダム・クーパーや熊川哲也、首藤康之らカッコいいバレエ男子の台頭で、ナヨッとしたイメージはすっかり反覆。バレエ男子はまだまだ少ないとはいえ、偏見にさらされることはまずないだろう。この映画が映し出す北欧・ノルウェーにも、バレエダンサーを夢みる少年たちがいる。
カメラが追うのは“紅顔の美少年”という言葉がぴったりなルーカスと、中国系のシーヴェルト、体育会系のトルゲールという3人組。同じくドキュメンタリーの「ファースト・ステップ 夢に向かって踊れ!」が追いかけた少年少女のように、度を超した家族の期待や過酷な事情を背負っている子はいない。中流階級で両親に愛されて育った、ごく普通の少年たちだ。切り取られているのは12歳から16歳という、心も体も激しく変化していく“少年時代”の美しさとはかなさ、せつなさ。ごく普通の(でも美しい)男子たちだからこそ、一瞬の季節がもつキラキラした揺らめきが、甘いときめきを呼びまくる。
北欧の土地柄なのだろうか、一流のダンサーを目指して切磋琢磨するライバル同士だというのに、この子たちは仲がよすぎて無邪気すぎ。ロッカールームでじゃれ合う半裸の少年たちに萌えるなと言うほうが無理である。明らかに主人公であるルーカスはとくに、いちばん才能があるのにまったくギラギラしていない。「ぼくにはバレエがすべて」という決意がありながら、ロンドンの一流バレエ学校からの誘いに揺れる。友達や家族と引き裂かれる準備ができていないのだ。2人の親友との距離が少し開いたことに傷つく美少年の弱さ、脆さ。それでも道を選び取り、歯を食いしばって努力をしつづける強さ、激しさ。苦痛に耐え、変化と喪失に耐え、将来への希望と不安にかき乱される、そういう季節の中で、その顔はどんどんたくましくなっていく。
15歳で180センチまで身長が伸びて「成長痛がつらい」と語ったルーカスの、これは“心の成長痛”をすくい取った映画だ。唯一の欠点は、たった75分しかないこと! 渇望する続編は、彼らのフェイスブックやインスタグラムに潜んでいるかもしれない。
(若林ゆり)