「♪ある日ある日良一は~ 愛する亀に~」ラブ&ピース 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
♪ある日ある日良一は~ 愛する亀に~
園子温今年3本目!
雇われ監督の「新宿スワン」、原作未読の「リアル鬼ごっこ」は微妙だったが(「みんな!エスパーだよ!」はまだ未見だけど)、今年手掛けた中では一番面白い。
やっぱり園子温はこういうオリジナルでなきゃ!
どうジャンル分けしたらいいのか…。
サクセス、コメディ、ラブストーリー、音楽モノ、ファンタジー、そして特撮怪獣…。
ごった煮の奇想天外作!
バイオレンスやエロのイメージが強い園子温作品稀有な年齢制限ナシ、変化球で愛や夢を謳った、タイトル通りの“ラブ&ピース”な一作。
ロックミュージシャンの夢に破れ、周囲に馬鹿にされる冴えない日々を送る会社員・鈴木良一。唯一の友達は購入したミドリガメ“ピカドン”。
冴えない主人公は下積み時代。
動物への愛情は意外にも大好きだと言う「ベイブ」。
「愛のむきだし」「地獄でなぜ悪い」などに通じる作品への自身の投影。
ある時、溺愛していたピカドンをトイレに流してしまう。その時から、不思議な出来事が…!
良一の人生が突然花開く。
ピカドンを失った思いを込めた歌が音楽関係者の目に留まり、あれよあれよと言う間にロックミュージシャンとしてデビュー、スターに!
漫画みたいな主人公のサクセスストーリーが痛快。
その成功はまるで、ピカドンを駒にして遊んでいた人生ゲームのよう。(キモッ! 怖ッ! 危なッ!)
助けた亀に連れられて~♪…じゃないけど、全てはピカドンのお陰?
その頃ピカドンは…
トイレから流されたピカドンは、地下のとある場所に辿り着く。
そこは、不思議なホームレス老人が動いて喋る捨てられたおもちゃやペットと暮らす“ガラクタ天国”。
人知れず動き、捨てられても尚持ち主を思うおもちゃたちは「トイ・ストーリー」。
このおもちゃたちと不思議な老人のエピソードは切なく温かく、なかなか目頭熱くさせる。
老人から飴を貰ったピカドン。
その頃地上で良一が何か望むと、ピカドンが大きく成長、そして良一の夢も実現する。
良一の夢を叶え続けるピカドン。
ピカドンと夢への歌を歌い続ける良一。
そして遂に良一は夢の最果て、スタジアムでライブを行う事に。
膨らんだ夢と比例するように、ピカドンも…!
さながら旧大映の人気怪獣映画。
特撮もなかなか高クオリティ。
変化球的な夢は叶うというメッセージだが、園子温らしい毒気も。
○○○化したピカドンは人の貪欲の大きさ。
戦争や本来の意味の“ピカドン”を知らないバカ…いや、若者や過剰に盛り上がる2020年のスポーツの祭典への痛烈な風刺。
馬鹿にしてきた奴らの手のひら返し、天狗気分や傲慢。
キモ男からの俺様ロックミュージシャンへ。
長谷川博巳の変貌ぶりが面白く、本来の実力派の本領発揮。
「進撃」の何ちゃってリヴァイは忘れて~(>_<)
そして、ピカドンが可愛い!
ピカドンが名演技している!
夢は叶う。
奇想天外な物語の結末は…?
冴えなかった時も、人気者になった時も観客席に密かに、想ってくれる人がいる。
園子温、アンタがこんなに温かいハートの持ち主だったとはね!