「親子が成仏するまで」母と暮せば movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
親子が成仏するまで
丁寧に昭和の理想の女性像を映像化しているからこそ、
元々クリスチャンが多い地域の長崎で、
元々お人好しな部類の方であっても、
「何であの子だけ?代わってくれたら良かったのに」
と最後に母伸子が口にするのが効いてくる。
亡くした家族が大切だから、
誰しも、他の家庭で家族と同世代の子が生きていたら、
いいなと思う感情を抱いて普通だと思う。
夫を結核で亡くし、長男を戦争で亡くし、
次男までも原爆で亡くし、
失意をどうにか次男の恋人の町子に支えられて3年過ごして、町子を娘のように想う伸子ですら、思うのだ。
吉永小百合も黒木華も、
監督や男性の考える理想的な女性で、
原爆の実際の中では、画にできている部類の生活なので
作品で扱う登場人物それぞれの感情はまだ美しさ優しさを残せている方。
それでも充分もう散々に悲しい。
明らかに憎むべきは戦争そのものなのだが、
負けたアメリカから流れる闇物資で
少し生活に贅沢が出るのもまた事実。
理想的な女性達に、「現実」のスパイスを加える上海のおじさん。
出兵した男性達もまた、元々は女性から産まれて、
お母さん大好きな男の子達だったわけで。
戦時中辛い時寂しい時、母の優しさを思い出した者は沢山あっただろう。
幽霊という設定がゆえ、それを声に出して伝えてくる。
マザコンと叩く評判はわかるが、実際男性ってマザコンな生き物だよなぁと。
もし生きていたら、20代男性はあんなにペラペラと恋心や胸のうちを母親には話さないし、とっくに浩二は町子と新しい家庭の大黒柱。
霊だからこそ童心に還り、全てを言葉に出している。
母には、たとえ息子がいくつでも、大切な子供。
戦争なんかに奪われて、悔しさ悲しさ寂しさこの上ない。この作品を見て、亡くした家族と重ねて、浩二が発する台詞に救われる遺族はきっといると思う。
息子の霊が、3年間母が諦めないから出てこられなかったと言っている通り、母が息子の生存を信じているうちは霊にもなれずにいたということか。
そして母が、現実として息子は亡くなっていると理解できる頃を見計らって出て来ている。
夫や長男と違って、遺体や遺品さえも全くないから、希望を消して亡くなったと認識し生活を進めるのは非常に難しい。
作中、伸子に現実を突きつけるのは、息子の霊にしか出来ない役割なのだろう。
終戦して3年経っても、国民の生活も苦しく、癒えぬ傷を沢山抱えている中での話。
決して良いななどとは言えないが、
身寄りがなくなるまで家族を亡くした母親が少しずつ、息子の霊と共に生きている世界から離れていき、息子のお迎えがある状態で息を引き取り、長く経つことなく発見されて、悲しみ悼まれながらミサまでして貰える最期は、あくまで最期の形だけで見ればかなり恵まれていると思ってしまった。
ミサで、伸子だけでなく遺品もなかった浩二も一緒に天国に送って貰えているという表現があのCGなのかなと。もう霊になることもなく、成仏するのだろう。
伸子はそれまでどれだけ、品位を落とさず、ひとり抱えて苦しんできたか。
町子すら結婚を決めた時、この世に生きる意味も幸せも未練も全てなくなって整理がついたのだろう。
ただし、町子の結婚は町子のご家庭と町子が決めることで。今頃孫が産まれているかもとか想像してしまうのも、浩二が町子を大好きだからすっぱり送り出せないのもよくわかるのだが、あれだけ関わりがありながら町子のご家庭は会話にすらも全く出てこないのがとても謎。
そして、子供をたくさん産んで、って当時の価値観での言葉が何度も出てくるが、現代だと叩かれちゃうかも。
浩二への想いは嬉しく有難くも、断腸の思いで町子には浩二を諦めて幸せになって欲しいと結婚を勧めたが、結婚相手となった黒ちゃんは戦争で足を失くされた方。
恋仲だった女性が、別の者と結婚し幸せになって欲しいと想いを切り替える時、大好きな町子の結婚相手にどこかしら不自由がない方が珍しいほどだったことを、浩二は想像していただろうか。
町子はどの選択をしようとも、お世話をする人生。
それでも、生き残った者が背負う罪悪感や苦悩を、ひとりで感じ続けるよりずっと良い。
話し相手がそばに居続けるだけで良い。
それも難しくなった伸子には、寂しさからか本当なのか、次男の霊との会話をする日常が始まっていき、次第に現実との境目がつかなくなっていったのでは。
それは寂しすぎて、認知症のような状態が進んだのか、一種の逃避だったのか、わからない。
それでも掃除まで欠かさず、助産師の仕事まであって、稼ぎ手がいなくて分家の未亡人でありながら、髪や身だしなみも、言葉も優しさも乱れない伸子は、戦後の、戦死した男性、生き抜いた男性達全ての、理想像。
伸子のお隣に住むおうちこそ実際。
身なりも何もはっきり違いをつけて、画でそれは示してある。
見た目だけでも美しい中で語られる、
状況ではなく気持ち。
まだ学生設定、息子設定だから二宮和也はまぁよく喋るが大人になりきっていない男性の演技がとても上手。
霊になったことで子供に戻ったかのようにお母さん大好きが溢れ出る。笑う演技のみぎこちないが、メンデルスゾーンに大粒の涙を流し、台詞はないが生きていたら良かったのにとやるせない悔しさ悲しみがひしひし伝わる演技がとても良かった。
医大学生が高校の頃には中学生の町子と出会っている。
どんな馴れ初め?